はなもあらしも ~真弓編~
試合の運びは、近的と遠的両方を行ない、その的中数の多い方の勝ちという、しごく簡単なものだった。
まず、橘とともえが二人並んで近的に挑む。まだ霞の取れない中、ともえはしっかりと霞の向こうにある的を目に焼き付けた。
橘の第一射は見事的中。
「当然ですわ」
ともえの第一射。こちらも的中。
次に氷江と真弓が近的に挑む。そしてどちらも的中。
どちらも一歩も引かぬ接戦が続き、的中数も同数となっていた。
本来団体戦は三人一組で行うのが通常だが、今回は笠原道場の決めた特別ルールが適用されている。このように同数で並んだ場合、次の遠的で決着をつけるようだ。
ともは弓を構え、すうっと息を吸い込んだ。
道場に立てなかった日から、真弓に教えられたイメージトレーニングを毎日続けてきた。風呂に入っている時も、寝る時も、どんな時でも流れるようなイメージを頭に描きつづけてきたのだ。
矢をつがえ、弦を耳の後ろまでしっかりと引く。
そして的と風を読み、一気に矢を放った。
タンッ!
「的中!」
続く橘も的中させ、氷江と真弓も同じように的中させた。
一通り競技が終了したところでしばしの休憩が入った。
「これは耐久戦になりそうだな」
汗を拭いながらぼそりと氷江が呟く。それにつられ、ともえは空を見上げた。霞はまだ晴れない。
「大丈夫?」
心配そうに真弓が声を掛けてきた。
「はい。今日は調子いいんです」
「そう? 足は?」
「問題ありません」
ただ、このままずっと決着がつかなかったら、さすがに足にも痛みが出て来る可能性はある。それを案じて真弓は視線を強くして遠く先の的を睨んだ。
「おや、あれは……」
「え?」
ともえが何事か聞き返そうとした所で試合再開の声がかかり、真弓はすぐに射位に立つ氷江の隣りへと向かった。真弓はこちらへ戻って来る橘に、小声で何やら言った。
その言葉を受けて、橘の顔は険しいものとなり、ともえの隣りで座るその空気はとても重たかった。
作品名:はなもあらしも ~真弓編~ 作家名:有馬音文