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はなもあらしも ~真弓編~

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「ともえちゃんはどれくらい練習したら笠原道場に勝てると思う?」
「どれくらい? ……分かりません」

 実際考えてもそんな事分からない。まさか橘や氷江の実力を数字で測れる訳ではないのだから。首を横に振ると、真弓はともえの手を握ったまま歩き出した。
 引かれるまま真弓の暖かい手の感触に酔っていると、

「そうだね、僕にも分からない……ともえちゃんがうちの道場に来てすぐの頃、強くなりたいと言って必死に練習をしていたのを覚えてる?」
「はい」
「その時、僕はこう言わなかった?『弓道は精神状態が大きく左右する』って」
「……あ」

 ともえはまた同じ過ちを繰り返す所だった。強くならなければと気ばかり焦り、変に力が入っていつもより上手く矢が射れなかったのだ。
 それはほんのちょっとした事なのに、心の乱れはすぐに矢を通して現れる。
 急にともえの視界が塞がれた。
 驚くともえ。

「っ!?」
「ともえちゃんはよく頑張ってるよ。大丈夫、焦らなくてもきっといい結果が出る……僕はね、そうやって弓道の事や日輪家の事を一生懸命考えてくれるともえちゃんが好きだよ」
「え……?」

 真弓の声がともえの頭のすぐ側で聞こえてきて、自分が真弓に抱きしめられている事にようやく気付いた。
 驚いて離れようとするのだが、頭が混乱して体が言う事をきかない。
 そうこうしているうちに真弓はともえから離れ、ぽんと優しく頭に手を置いて微笑んだ。

「こんなに冷えてるじゃないか。さ、部屋に戻ろう。明日はまた早くから練習なんだ、しっかり休んで体力を回復させないと」

 最後、真弓さんはなんて言った?
 好き?
 私の事が?

「どうしたの?」

 必死になって真弓の言った言葉の真意を考えていたともえは、顔を覗きこまれて慌てて首を振る。

「いっ、いえっ! 何でもありませんっ!」
「そう? はは。実はね、僕も何だか気持ちが落ち着かなくて眠れなかったんだ。でも、こうやってともえちゃんに偶然会えて話しが出来て、何だか落ち着いたみたいだ。ともえちゃんの才能の一つかもしれないね」
「え?」

 真弓も試合が近づいて不安を抱えている。自分だけではないのだ。それにしても才能の一つとは一体なんだろう。

「人を笑顔にする才能」
「―――そんなっ、それは私じゃなくて真弓さんですっ! 真弓さんはいつも優しくて、私を励ましてくれます! 本当に感謝してるんです」

 必死にそう伝えると、真弓は目を細めた。

「そうかな? じゃあ、お互い様ということにしよう」

 ともえはどんどん真弓を好きになっている。始めてこんなに男性に優しくされたから。と言われればそうかもしれない。だが、それだけではない。 
 真弓が側にいれば何でも出来る。そんな気にさせてくれるのだ。
 ああそうか。真弓は自信の無い自分をいつも励ましてくれる。そしてその励ましは力になっている。それを実感しているから、好きなのだ。
 残された時間で自分に出来る精一杯を努力して、真弓にまた微笑んでもらいたい。隣りを歩くその横顔に、そっと誓った。