はなもあらしも ~真弓編~
「真弓さんは、私にとっても美弦にとっても憧れの人。だけど、憧れで終わらせなきゃいけない人なの」
「美琴ちゃん、私……」
美琴が真弓に好意を寄せている事は知っていたし、応援したいと思っていた。
しかし、ともえは自分の気持ちが真弓に向かっている事にも気付いてしまったのだ。
「いいの、ともえちゃん。私はどんなに想っても真弓さんと結ばれる事はないけれど、ともえちゃんはチャンスがあるんですもの! それにね、あの日偶然見かけたような見知らぬ女の人に真弓さんがとられるのは嫌だけど、ともえちゃんなら私嬉しいの。だって、私ともえちゃんの事、真弓さんと同じくらい大好きだから!」
「美琴ちゃん……ありがとう―――」
「あら、やっぱり真弓さんの事を好きだと認めるのね?」
「ええっ!?」
急にしたり顔になると、美琴は肩をすくめて可愛らしく笑うと、くるりと一回転してともえの目の前に立った。
「ふふふ。ともえちゃんの事を、真弓さんが好きになるように頑張らなくちゃ。でないと私、許さないんだから」
ああ、本当に美琴は真弓を好いているんだ―――
改めてともえは笑う美琴の姿に真弓の顔を重ねた。
はっきりと言われた事で確信した自分の真弓に対する気持ちに、ともえは痛みの消えた足をチラリと見下ろして小さく一つ頷く。
「確約は出来ないけど、頑張る。私も、真弓さんと同じくらい美琴ちゃんの事好きだから」
それからともえと美琴は手を繋いで道場へと歩いて帰った。
美琴は一体どんな想いで真弓の事を好きで居続けたのだろう。決して結ばれる事の無い相手を思い続けるなど、ともえには恐ろしくて出来ない。美琴は本当に強い女性なのだと思った。
そして自分も、心を強くしなければと。
作品名:はなもあらしも ~真弓編~ 作家名:有馬音文