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はなもあらしも ~真弓編~

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 * * *

 大きな演劇場で見る寄席は、田舎の神社で見た寄席とは比べ物にならない程面白かった。
 噺家の腕前もあるのだろうが、音楽などもあって華やかで、ずらりと並べてつり下げられた提灯が煌煌と灯り、美しくもあった。
 帰り道、ともえが夜空を見上げて先ほどの演目の話しに花を咲かせていると、真弓が急に立ち止まった。

「真弓さん?」

 真弓はずっと足を怪我しているともえの手を取ってくれていたので、真弓が止まると自然とともえも止まることになる。
 隣りを見上げると、真弓は一瞬悲しそうにともえを見つめた。
 その表情にまたともえは胸が鳴る。

「ともえちゃん。足を怪我して苛立つ気持ちは良く分かるよ。練習もまだ一日中出来る訳じゃない、それに試合まではあと10日ほど……」

 真弓は全部見抜いていたのだ。
 ともえの不安も、焦りも、苛立ちも……。

「僕はね、父上のお考えに賛成なんだ。時代は流れ変わるものだ。弓道もその時々に合わせて形を変えてもいいと思う。限流師範は素晴らしい人物だけど、きっと変わる事が怖いんだ」
「怖い―――」
「そう。人は誰しも安定を望むからね。急激な変化に対応出来ない人もいる。明治になった今がまさにそうだけど、変わる事にも変わらない事にもどちらにも長所と短所があるのは分かる?」

 そう言って静かに尋ねる真弓に、ともえはしばらく考える。

「―――変わる事で新しい楽しい事が出来るかも知れない反面、伝統が廃れるかも知れない。とかですか?」
「うん、そうだね。だから僕は伝統は大切にしたまま、時代に合った変化が出来るように皆で考えたいんだ」

 語る真弓は、幸之助と同じように弓道界の事を真剣に考えている。その姿勢にともえは深く打たれた。確かに試合が決まった時、自分で役に立てるなら、手伝いたいと思ったが、真弓の今の言葉を聞いてさらに、何よりも真弓の為に手伝いたいと思った。

「私も、一緒に考えさせてください」

 無意識のうちについた言葉に、真弓は一瞬驚いたような顔をしてすぐ破顔した。

「ありがとう、ともえちゃん。君がいてくれると心強いよ。でも、取りあえずは焦らず怪我を治す事を一番に考えてね」
「はい!」

 そっと握られた真弓の手は暖かくて、ともえは目をつぶってその感触をしっかりと心に焼き付けた。