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はなもあらしも ~真弓編~

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「まさかこんな所であの二人に会うなんて、びっくりしたね」

 橘も氷江もすっかり見えなくなり席に着くと、真弓はともえの腕を解放して笑った。

「びっくりどころか、本当に腹立たしいです! 人の事肥だめとか馬小屋とか!」

 怒るともえは、次の瞬間心臓が止まりそうな程驚いた。
 何故なら、真弓が急にともえの肩を抱き寄せて頭に鼻を寄せたのだ。

「まっ、まっ、まっ!!!!」

 真弓さん、何やってるんですかあっ!?
 と、言いたかったのだが、驚きすぎて言葉が出ない。
 ふと離れると、真弓は首を傾げて微笑む。

「とってもいい匂いだよ」
「―――――」

 わざとやっているのか真弓の顔からは分からないが、ともえはその一言で先ほどの怒りが嘘のように引いた事に気付いた。
 真弓は優しい。いつもともえの事を気遣ってくれて、今日もこうして気晴らしに連れ出してくれた。

 ドキ……

 胸が小さく騒ぐ。
 女の子はやはり優しくされれば嬉しいものだ。ただでさえ女性扱いなどされたことのないともえにとって、真弓の一言一句、一挙手一投足全てが心を動かす。

 恋……なのかな―――

「やはり橘さんや雪人君は知らなかったか……」

 ぼそりと呟いた真弓は、しごく真剣な表情で何やら考え込んでいるようだ。じっとその横顔を見ていると、

「あ、ともえちゃん。始まるみたいだよ」

 いつもの顔に戻り舞台を指差した。

「はい。楽しみです」

 ともえを襲った暴漢が笠原道場の門下生であろうと真弓も考えていたらしく、橘と氷江にかまをかけたのだが本当に知らないようだった。となると、犯行は直接襲った人物が独断で動いたのだろう。

 やめよう。考えても仕方ないし……

 そしてもう一度舞台に目を輝かせている真弓をちらりと見、胸を躍らせる。美琴もこの真弓の優しさに惹かれたのだろうな。などと考えていたら、寄席が始まった。