封神演義から読み解く現代政治の腐敗構造
殷王朝内部において暗君へと諫言を言い続けた賢臣に当たるのは、一部の議員らが近いのだろうが、そうした良心派の議員は末期の殷王朝と同じく極少数である。一応は法治国家である現代においては処刑とまではいかずとも、郵政民営化法案可決選挙における平沼赳夫元議員のように、党が推進する法案へ反対したために自党からの公認を取り消され、落選させるための刺客として対抗馬を放たれることなどは十分にある得るだろう。端から見れば彼らは所属政党である自民党の上層部から迫害されているようにさえ思える。
限られた金の保有量によって物価が決まっていた十九世紀以前と、金の保有量などに縛られず、本来は物価の高低によって貨幣の供給量と税率を決定しなければならない現代とでは取るべき政策は異なる。そうした経済制度の違いや、政治腐敗の部位や程度などの差異はあれども、なぜこのように殷代末期の有り様と現代の日本の政治構造が似ているかと言えば、ただ単純にこのような極端に腐敗した構造が国家滅亡における余りに有り触れた典型例だからである。殷の紂王が暴君として伝わっている理由は、新たな王朝である周の評価を高くし、その誕生を正当化するためでもあるのだろうが、そうした人物像や王朝の構造の基となっているのは同国において亡国へと向かう政治腐敗の典型的な構造でもあるが故のはずである。
そのようにして現代の日本を見れば、太古の亡国と何ら変わらない現在の腐敗した政治状況は、現代の日本国という集団が、歴史や過去の教訓から何一つとして学んでいない凡愚の群れであるという客観的事実の証明となるだろう。
封神演義は創作物であるので当然脚色や架空の部分も多分に含まれているとは言えども、大まかな流れは史実を参考にしており、創作物であるからこそ史実よりも物事の要点が分かりやすいとも言えるため、あながち馬鹿に出来るものではない。余談であるが、前述の理由や封神演義という作品の知名度と面白みに加えて、狐狸精のようにその国の者でない存在が自らの手足となる存在を用いて政治を動かしているという点などが現代日本に似通っており、理解し安いということも当方が殷王朝の史実でなく、それを基にした寓話である封神演義を用いて考察する一因である。
周というまともな反抗勢力も、新たな統治者たる武王も、善政を担う周公旦も、助力するはずの軍師姜子牙も登場しない殷王朝は、おそらく殷王朝の悪政によって国力が酷く衰退した所を、その領土や資産に目を付けた他民族から侵略されることで滅亡して幕を閉じることになったのだろう。その場合、統治者であった君主紂王は見せしめとして処刑され、賢臣や忠臣などはとうの昔に紂王によって殺されて世におらず、妲己は殺される又はそもそも殷の者でないために早々にどこかへと逃げおおせ、狡辛い奸臣達は新たな支配者へと媚び諂って相も変わらず保身のみを図り、若い女は無残にも物品の一種として扱われ、子供や男は処刑されるか奴隷としての一生を送ることになるはずである。そして、今のまま日本が衰退し続ければ、現在でも弾圧され続けているチベットやウイグルのように遠くない未来においてこれと大差ない結末が待ち構えていることだろう。
それを悲惨として厭うならば、お為ごかしで善人や国士面をしておきながらも実際は保身第一主義の阿呆でしかない日本の為政者共の手綱を有権者が厳しく握ることで、政治家の保身と利権獲得のための政治から国民のための政治へと力尽くで方向転換させるか、理知を正しく学んだ日本国民の中から賢い為政者達が選出され、保身しか持たない下衆でなく、自分が主張する政策によって何が起こるかさえ分からぬ阿呆でもない彼らが国民のための真っ当な政治を行うより他に道は無いだろう。何れにしても、今に続く悪政が正しく改められなければ、国は最も残酷な形で滅ぶしかない。
結局腐敗した政治のまま物の見事に滅亡へと至った場合における日本国の存在意義とは、今に伝わる殷王朝がそうであるように、日本のように国民の精神と政治が腐敗をすれば悲惨な形で国が滅んでしまうという悪い手本として他国に伝わることのみである。「そんなことをしていると日本のようになるぞ」と見知らぬ外国人から嘲笑混じりに言われるためだけに現代の日本人が日々を生きていると思えば、最早悲惨を通り越して滑稽ですらある。しかし、それとて致し方なく、直近二十年を見れば主要先進国の中で経済的に最も衰退しているという客観的な事実があるにもかかわらず、一体何をどう勘違いしたのか自ら達は賢明なのだと思い込んで二十年以上も改めようとしなかった者達を相手にすれば、知的な人間は敬意など抱かないだろう。これほどまでに喜劇的な国家国民は人類史においても極めて稀少であり、本来であれば、現代という歴史の先に生きながらも大事な事柄は何も学ばず、殷代末期の紂王などより遥かに愚かな現代人は彼を暗愚と笑うことなど許されないのである。周辺国が成長する中で衰退していく唯一無二の劣等国という非常に分かりやすい危機的状況にありながらも悪政や国民の倒錯した精神がこれからも改められないというのであれば、あるいはそのように醜悪な国は早々に滅ぶ道しかないのかもしれない。
憐れと思うのは現代の有権者達などではなく、今は政治に関わる権利を持たないにも拘わらず悲惨な未来を生きることになるであろう幼い子供達であり、特に今まで命がけで日本国を守ってきた嘗ての先人達である。子孫のためにと尽くした彼らへ申し訳ないと思う気持ちがたとえ僅かでもあるのならば、日本の為政者や有権者はひたすらに国力を衰えさせるだけの現在の悪政を正しく改め、国家国民を強く豊かにしなければならないだろう。
作品名:封神演義から読み解く現代政治の腐敗構造 作家名:ナナシ