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Journeyman part-3

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 この試合、ティムの成績は25本のパスを投げて17本成功、パス獲得ヤードは253ヤード、走っても42ヤードの独走を含めて108ヤードを稼ぎ、タッチダウンパスも2本決めた、ただしインターセプトも一本喫している、ティムはそのことを気にしているのだ。
「気にするな、あれはコントロールミスではあったが判断ミスじゃないよ、20本以上投げればコントロールミスなんか誰にでも一つや二つは有る」
 実際、そのインターセプトはボールが少し高く浮いてレシーバーが弾いてしまったのを相手にキャッチされたもの、そしてティムの口ぶりに弱気になっていた頃の面影はない、気に病んで引きずることがなければ、ミスはミスとして反省することはもちろん良い事に違いない。
 リックの目から見れば、まだ危なっかしい判断もいくつかあった、だが自分の力を過信していた頃の無謀さはだいぶ消えている、それに加えて積極性も取り戻したのだからはっきり『成長している』と言えるだろう。
 サンダースはこれからロードの2試合を戦うために日本を離れる、治療のために帯同できないのが残念だが、クォーターバックコーチの経験もあるビルがいるのだから……。
 今自分がしなくてはいけないのは肩を治すこと、リックはそう自分に言い聞かせてチームメートと別れた……。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

「まだ無理は禁物よ、プレートで固めてあるだけでまだ骨はきちんとついたわけじゃないんだから」
「そうだな……」
「焦っちゃダメ、きちんと治すには今が大切なのよ」
「確かに……焦っても今シーズン間に合うわけでもないしな」

 リックは病院で療養士の高橋由紀のサポートを受けてリハビリを開始した。
 由紀はアメリカ留学の経験があり英語が堪能、その際に大学フットボールチームのトレーナーも経験していると言うことでリックを担当することになったのだ。

 由紀が言うようにまだ骨はしっかりついてはいない、無理をして亀裂を広げたりすれば元も子もない、それはわかっているつもりだが、プロスポーツ選手として生きて来たリックは思うように動かない肩に苛立ち、つい無理をしようとしてしまう。
 
「今日はこれくらいにしておきましょう」
「もう少し、どうかな?」
「ダメ」
 そう言って微笑まれるとリックも納得せざるを得ない。

 ベッドに戻るとスマホが点滅していた、ジョシュからのショートメールが入っていた。
【肩の調子はどうだ? それはそうと話したいことがあるんだ、都合のいい時に電話してくれ】
 予定されていたリハビリが終われば夕方の回診まで別にやることもない、リックはスマホを置くこともせずにジョシュの番号にカーソルを合わせた。

「リックだ」
「ああ、メールを見てくれたんだな」
「お前、まだ日本にいたのか」
 既にプロ野球のシーズンは終わっている、それなのにまだ日本にいると言うことは……。
「何も聞かずに『おめでとう』って言ってくれ」
「おめでとう、何に対して言っているのか大体想像は付くがな」
「多分ビンゴだ、彼女がプロポーズにイエスと言ってくれたよ」
「改めて言わせてもらうよ、おめでとう」
「ありがとう」
「アメリカには帰らないのか?」
「すぐにはな、彼女の両親にちゃんと挨拶して、許しを貰ったら彼女を連れて帰って母親に会ってもらうつもりさ」
「チームとの契約は?」
「済ませた、2年契約だ、年棒も少しだけアップしたよ」
「そりゃ良かった」
「できればもう少し長い契約が欲しかったが、2年でも契約満了の時は36歳になるからな、そこまでは通らなかった」
「俺は2年契約なんて結んだことがないよ」
「俺も初めてさ」
「式とかはどうするんだ?」
「まだ何も……だが来年のキャンプが始まるまでにはきちんとしたいと思ってる」
「日本で?」
「ああ、日本で、俺の今のチームメートはほとんどが日本人だからな」
「その時は知らせてくれ、アメリカにいても飛んで来るさ」
「ありがとう……悪いな、嬉しくて誰かに話したくなってさ、その時真っ先に浮かんだのがお前の顔だったんだ」
「そう言ってくれれば俺も嬉しいよ」
「じゃあな」
「ああ、お幸せに」
 
 電話を切ったリックは暖かい気持ちに包まれた。
 ジョシュとは子供時分からの付き合い、高校までずっと一緒だった、大学は別々になり、その後もフットボールと野球に道は分かれて会う機会は随分と減ったが、ずっと連絡を取り合い友情を暖めて来た仲、『ジャーニーマン』としての境遇も同じで気持ちもよくわかる。

(そうか、ジョシュはもうジャーニーマンじゃなくなったんだな、キャリアの終わり近くにはなったがちゃんと居場所を見つけられたんだ、ひょっとすると日本に住むとか言い出すかもな……)
 ジョシュの婚約者にはまだ会っていないが、電話で言ってた通り、日本の女性は優しくて控え目で美しい……きっと彼女もそうなんだろうな……。

 そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
「リック、ジャージを忘れてたわよ、Tシャツのまま戻って来ちゃったのね」
「ああ、そうか……わざわざありがとう」
「それじゃ、また明日」
「ああ、また明日……」
 由紀はそれだけで出て行ったが、それからしばらくの間、なんとなく彼女の髪の香りが残っているような気がした……。


作品名:Journeyman part-3 作家名:ST