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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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さばは猫である

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僕は家族からとても可愛がられている。外にも出してくれないほど、僕は可愛がられている。つやつやしたサバ模様の毛並みは、世界一なのだと。

ただ一つ、「びょういん」という所に行く時だけは、僕はカゴの中にかくまわれて、なんだか白い服を着た怪しげな集団が居る建物に連れて行かれる。毎回、「いやだ!行きたくない!」と叫んでも、どうしてなのか家族はその時だけは聞いてくれない。いつもは僕が「おやつをちょうだい」と言えば、困っていながらも僕にあげずには居られないくらい、僕を愛してくれているのに…。

それから、僕の家族は僕の言うことをたまに分かってくれない。なんでかは分からないけど、「どいて」と言った時に「ごはんはまだよ」とトンチンカンな答えが返ってきたりする。だから僕は最近、ちょっと困っていることがある。

僕は、外に出たいんだ。会いたい人が居る。いつも夕方になると窓の外を通るんだ。とっても可愛い子だから、会って、気持ちを伝えたい。こんなに可愛がられてる僕だもの。きっと彼女だって、愛を受け入れてくれる!

でも、玄関まで行っても僕には越えられないほど高い柵があって、ジャンプして挑戦していると、お姉ちゃんやお母さんが慌ててやってきて、「こら、お外は危ないのよ、さばちゃん」と抱えられてしまう。僕は他の家族に比べて体が小さいから、抱えられてしまうと逃げることも出来ない。その時に「外に出してよ!あの子に会いに行くんだ!」と訴えかけても、「ダメダメ、おこたが出てるから、そこに入ろう?」なんていう風に言われてしまう。みんな僕を大好きなのは嬉しいけど、僕だって好きな人に会いたいのに…。






そんな僕はある晩夢を見た。その夢には、僕とよく似てふわふわの毛で覆われて、目は細く、ヒゲがフサフサの人が出てきた。そしてその人はこう言う。

「我が子、ネコよ。お前はあのネコに会いたいのだろう」

僕はびっくりしてこう答えた。

「ネコとはなんですか?僕はネコという名前ではありません!」

僕がそう言うと、その人はちょっと驚いて身を引いた。

「お前は猫という動物であろう?」

なんだって!?

「そんなはずはありません!僕は人間のはずです!」

その人はふんふんと二度頷いて、さらにこう続ける。

「お前は残念ながら“猫”という生き物なのだ。お前の家族と同じ人間ではない。家族からとても愛されているため、そう思うのだろう。だが、落ち込むことなどない。お前は一生を家族から見守られて暮らすのだ。だが、お前の口を一日だけ開かせて、外に出られるようにしてやろう」

その人はそう言って、煙のように上へ上へと上っていってしまった。僕は夢の中にぽつねんと残されたままぼーっとしていて、起きた時にはとてもおなかがすいていた。






変な夢を見たなあ。そう思っていつもの通りにベッドから体を起こして、お母さんの部屋の前まで僕は来た。お母さんは起きてるかな。

「お母さん、起きて。ごはんをちょうだい」

僕がそう言って中に呼びかけて、それでもお母さんが起きてこない時のために、とても高いドアノブに手を掛けようとした時だ。

部屋の中から急にバサバサと布団を返す音がして、ガチャッとドアが開いた。お母さんは何かにびっくりして飛び起きた時みたいに、おろおろして周りを見渡している。そして部屋の中を振り返った。そこには、寝ぼけまなこのお父さんが居る。

「ねえお父さん、今の聞いた?」

「なんだぁ?今のって?」

「“ごはんをちょうだい”ってやつ。今見ても誰も居ないのよ。さばは居るんだけど。気のせいかな?」

なんだ、お母さんの方が寝ぼけてるじゃないか。僕が言ったんだから、僕が居て当たり前なのに。僕はお母さんを見上げて、仕方ないのでもう一度繰り返す。いつものマグロの缶詰め、もうちょっとたくさん食べたいな。

「僕だよお母さん。ごはんをちょうだい。マグロの缶詰め、もっとたくさんがいいな」

僕はいつもの通りにそう言っただけなのに、なぜかお母さんは僕を見つめて怖そうに怯え、「きゃあああ!さばが喋った!」と叫んで、そのまま倒れてしまった。






大変だ。とても大変なことになった。どうしよう。

あれから、お父さんがお母さんを起こそうとてんやわんやをするやら、お姉ちゃんが慌てて起こされて僕の言うことにいちいち驚くやらで、この一時間、僕は喋り続けなんだ。それで僕は分かった。僕は家族の中で一人だけ人間じゃなくて、「猫」というものなのだと。どうしてなんだろう。今までずっと、みんなと一緒だと思ってたのに…。

「さば、それで、夢の中に出てきた猫はどんな格好してた?」

お姉ちゃんはとても興奮していて、いつもみたいに髪を梳かすのを忘れている。寝巻きのままで僕を膝に抱えて、ずっと話しかけてくるのだ。それで僕は分かってしまった。

「…今まで、僕が喋ってたことは、家族の誰にも分かってなかったの…?」

さみしくなってそう言うと、お姉ちゃんは泣きそうな顔をして僕をぎゅっと抱いてくれた。

「今はわかるよ、さば」







そのあとで「“びょういん”にはもう行きたくないんだ」と言ったけど、お母さんもお父さんも全然聞いてくれなくて、「体を悪くしたら大変なんだよ。たまにだから我慢してね」と言われた。でも僕はそのあと思い出したんだ。

そうだ、僕はあの子に会って「好き」って言いたいから、外に出なきゃ。だから、家族を説得しなくちゃ。

その日、お姉ちゃんは“がっこう”が休みだから、一日中僕と一緒に居ると言ってくれた。でも、僕はあの子に会いに行きたい。そう思って、あの子の姿を思い浮かべた。

ほっそりした体は真っ白くて、僕の家を囲む塀をとととっと駆けていく姿は軽やかで、しっぽも真っ白で長い。彼女の目はお空みたいに青くて、きらきらしてる。そうだ、これを伝えて、外に出してもらおう!

「ねえお姉ちゃん…」

「なあに?さば」

お姉ちゃんはにこにこと僕を見下ろす。“許してくれるかな”と思ってちょっと不安だった。だってみんな、外に出したくないほど僕が大事みたいなんだもの。

作品名:さばは猫である 作家名:桐生甘太郎