青い鳥は切り刻まれて
「オマエがそんな答えを出すとはショージキ、思ってなかった」
部屋の住人が鼻で笑った。
「お…俺は…」
ガタガタ震えながら俺は、とにかく断らなきゃの一心で言葉を紡ごうとした。
「一発でOKすっと思ったんだけどナー」
俺は、出ない声の代わりに頭を横に振った。
「どうしても嫌なのかよ」
俺は首を縦に振る。
「ソーか…」
溜息をついて部屋の住人が肩をガックリと下げて俯いた。
諦めて…くれるのかな…。
俺はそんな、甘いことを考えていた。
でも、その考えは部屋の住人が顔を上げた瞬間、打ち砕かれた。
「ワリーな…俺はオマエの声が、是が非でもホシーんだよ」
ゆっくりと、俺の前に立ちはだかる。
立った…じゃなくて立ち塞がるってのが一番合ってた。
「あ…あの…」
「俺の意見に反発したテメーを恨めよ?」
何が起きたか分からなかった。
ソファに押し倒されてあっという間だった。
口を手で塞がれえて…ヒンヤリとした空気を感じた。
足の先まで。
それから…。
「ッッッ!!?」
体の筋と言う筋がビンッと伸びた。
背中にソファを感じない。
いや、それよりも俺を支配したのは激痛だった。
機械で作られたシャッター音。
ガクガクとソファを掴みながら見た先は、携帯を持って笑う部屋の住人。
「逃がす気なんかネーんだよ」
口から手が離れた。
「今度は動画撮ってやるから」
その後に来た衝撃に、俺の口から吐き出された悲鳴が途切れ途切れになる。
理解する前に真っ白だ。
もがき、苦しみ、涙が出る。
俺は部屋の住人に弾圧されてしまった。
ソファから落ちた手すら上げられない程に。
冷たい声が降り注ぐ。
「わかんだろ?」
俺の顔を掴んで、携帯の画面を無理矢理見せる。
おぞましい映像が映し出される。
「オマエに拒否権ネーから」
終わった映像を繰り返し見させられる。
枯れ果てたと思った涙が再び溢れ出した。
止まらない。
人の涙ってこんなに溢れ出るんだと思うぐらい。
「俺の為に歌え」
閉じられた携帯。
「返事…出来ネー?」
動けない。
「なら、もう一度、教えてやろうか?」
俺の体が拒絶を示して震えだす。
もう、動かせないと思ってた首も、どれだけ動くんだって程に拒否する。
ズリ降ろされた足。
ソファに顔を押し付けられて。
再び、衝撃に身体を裂かれる。
「俺の為に歌え」
叫ぶことしか出来ない。
途切れる叫びしか口から出てこない。
「まあ、身体にココまで刻めばワカンだろ」
ソファにぐったり凭れたままの俺に言う。
俺は、もう意識を繋ぎとめておくことすら出来なかった。
目覚めれば、全てが嘘であって欲しいと。
悪夢であれば良いと思いながら…。
現実は残酷で、目覚めても、夢じゃ無いと思い知らされる、部屋の風景。
身体を駆ける激痛。
それから…問い。
「目、覚めたか?そろそろ返事をくれても良いんじゃネー?」
部屋の住人が、俺が目を覚ましたのに気付いて、携帯をチラつかせながら顔を覗きこんできた。
「俺の為に歌うよな?」
笑ってた。
嬉しそうに。
もう、部屋の住人は確信してる。
俺の返事を。
そして、俺は部屋の住人の求める答えを言うしか選択肢は無かった。
悔しくて、やっぱり涙が出てきたけど…。
俺は首を縦に振った。
部屋の住人の高笑いが部屋を支配する。
俺をがんじがらめに縛り付けた瞬間を笑った。
俺は逃げられないことに泣くしかできない。
鳥かごだ…。
俺は思った。
鳥かごの中の鳥はカゴが開いてても逃げられない。
飛べないように羽を既に切られてるから。
逃げた所でカゴから無様に落ちるだけ。
非情な現実が心を押しつぶす。
逃げ出せない恐怖の先には、受け入れてくれそうもない世界が広がっているだけだった。
作品名:青い鳥は切り刻まれて 作家名:櫻都 和紀