天界での展開
「なるほどな~~・・ そういう仕組みなのか・・・ お~~い! そこで杖を刀代わりに振り回している爺さま~~! あんた、今度は何処で生まれるんだい?」
「これ! 大声で呼ばない!」
「相当離れているから、これくらいの声で呼ばなきゃ聞こえないだろ。」
「そうではなくて、あの者達に話し掛けてはなりません。もしも、あの中の誰かが、あなたの質問に応えたなら、その者は、再び天界で修行し直さねばならない規則なのです。」
「そういうことか・・ こりゃ、どうもすみません。反省しました。」
「もう明るく軽~い反省は結構ですから、清廉女史の家まで急ぎましょう。あなたと出会ってからというもの、時間が掛かって仕方ありません。」
「はい、はい・・ おい、あんた・・、もう少しゆっくり歩いてくれないか?」
「これが、天界で公用の時に決められている歩く速度です。」
「あんた、決められたとか何とか言っているが、本当は、あの姉ちゃんの顔を一秒でも早く見たいんだろう。あんた、あの姉ちゃんに惚れてるな?」
「うっ、そ、そ、そんなことは、ありません!」
「そんなことはないと言いながら、かなり動揺してるじゃないか。何も隠す事などない。男が女を、女が男を好きになるなど、ごく当たり前の事じゃないか。」
「・・黙って、付いて来なさい!」
「いいや、黙らん。そうか、そうか・・こりゃ面白くなってきたぞ。」
「・・・・」
「まず・・だな、あんたが、あんたの上司に、あの姉ちゃんに俺の袖を繕わせろと言った途端に、あんたは、ちょっとだけだが目を輝かせた。」
「・・・」
「そしてだな、あの姉ちゃんの居る筈の処に行く間も、それまで以上に背筋を伸ばして、さも俺は偉いんだ的な歩き方だった。そりゃそうだよな、誰と雖も、自分が惚れた異性からは、必要以上に憧れの目で見られたいからな。」
「・・・」
「それから、姉ちゃんが早退したと聞くや、あんたは一瞬気落ちした様な態度を見せたが、これは、本当にほんの一瞬のことで、再び思い直した・・これは、あの姉ちゃんの家に行く恰好の理由が出来たぞ と、頭の回転が俺などと違って良いあんたは即座に考えた。その辺りから、あんたの顔に血の気がうっすらと湧いて来た。・・どうだい? 図星だろ?」
「・・・例え、私が、誰を好もうと、あなたには関係のないこと・・」
「そうだよな。」
「・・・」
「そうだけど、何故か気になるんだよな。」
「一体何が、気になるのですか?」
「おっ、受けたな。しかも、問い返してきたな。これは、あの姉ちゃんの話を誰かとしたい気に成りつつある証拠だ・・これは、もう、あんたがあの姉ちゃんに惚れていると白状したも同然だ。どうだい、俺が二人の橋渡しをしてやろうか? あんた、未だ告白していないんだろ?」
「・・・」
「往生際が悪いぞ。・・察するに、また天界の規則で、社内恋愛を禁止されでもしてるんだろう。」
「・・・」
「返事は、『はい、その通りです』だろ?」
「・・」
「また、黙りか。正直に言わなければ、俺があの姉ちゃんに手を出すぞ。」
「何という大胆な! それは、まかりなりません!!」
「おっ、それは、どうしてだい? 死人と天界の公務員の恋愛も禁止されているとでも言うのかい?」
「そ、それは、想定外のことで・・禁止されてなどいません。いませんが、その様な事、有り得ない。」
「有り得ないったって、禁止されてなければ、死人の俺が、姉ちゃんを口説いたって罪にはならない。」
「うっ・・・」
「こっちは、文字など下手でも、勘は鋭い。物事の抜け道なども知っている。いいか、よく聞けよ、社内恋愛禁止だろ? だが、此処は社外だ。それに、レ・ン・ア・イ禁止だろ? 恋愛などという面倒くさい事など省いてだな、いきなり結婚を決めちまえば問題ない。何処かの誰かが、『それでも恋愛の範疇だ』と咎めても、『いや、私達は、恋愛抜きで、即結婚の約束をしたのです』と言い張ればいいだろう。」
「・・・だが、例え私が、いきなり結婚を申し込んだとしても、先方が断ればお終いでしょう・・」
「あんた、意外にバカだな~~ そうならない為に、俺が一肌脱ごうと言ってるんだ。話の流れから想像すれば、うっすらとでも想像出来るだろ。」
「・・・うまく 行きますかねぇ・・」
「当たって砕けろだ。いざという時には、その場で襲っちまえ。既成事実だ。」
「そ、そんなことなど出来ません!」
「出来るから。まあ任せろよ。」
「・・・・」
〔to be continued)