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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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「さよならを言うために」1~5話

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“ついに言ってしまった。彼女の信頼や友情が普通よりも大きいらしいと目ざとく嗅ぎつけ、そこにつけこむように「死ぬ前に言っておかないと」なんて、まるで返しの付いた釣り針で心を引っ掛けるように、彼女に告げた。卑劣な真似をしたもんだ。今までだって卑怯なことはいくらでもしたけど、純粋な信頼を利用するように欲望を押しつけるなんて、こんなことは初めてだ。でも僕は、“どうか「うん」と言ってくれ”とだけ願っている。そうだ。そう願っている。だから卑怯な手口を使った。なるべく彼女が「いやだ」と言えないように。だって僕は、彼女を愛しているんだ!”

僕は帰宅して服を脱ぎ捨て、下着だけになってそのまま布団に横になり、そう考えていた。

“どんなに卑怯と言われようと、手を汚そうと、彼女がそばに居てくれればそれでいい!そうじゃなきゃいやだ!僕は彼女ほど愛した女性は居ないんだもの!”

そう思い始めた頃、僕はむせび泣き、布団を抱いて身を縮めていた。そのうち眠ってしまうまで、僕はずっと“どうか「うん」と言ってくれ”と願い続けた。




つづく