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赤房下の妖精 ~掌編集 今月のイラスト~

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「マスクを『かけない』ことが変装になるって、可笑しいですね」
「やっぱり……」
 ついに見つけた……『赤房下の妖精』だ。
 なるほど、芸鼓さんなら正座には慣れているし、姿勢が完璧なのも頷ける、奥ゆかしい日本女性の佇まいを醸していたわけだ……むしろ『良家の子女』なんかよりも。
「どちらまで?」
 俺がそう訊くと彼女は置屋の屋号を口にした。
「トランク、そこまで運びますよ」
「でも……」
「いいんです、一緒に歩けるならこれくらいなんでもないですよ」
 そう言いながらトランクをひょいと持ち上げると、彼女はにっこりと笑ってくれた。
「さすがに力持ちなんですね」
「まあ、元力士ですからね、これくらいは」
「気は優しくて力持ち、素敵です」
 マスクで口元は見えないが、その目に浮かんだ柔らかな微笑み……。
 現役時代は四つ相撲だったが、ここは押しの一手だな……。
 俺は密かに自分に気合を入れた、幕内には上がれなかったから相撲では金星は一つも取れなかったけど、この金星だけは逃すものか、と。


(注)『金星』は平幕力士が横綱に勝つことを指すが、『美人』の符丁にも使われる。