狐鬼 第一章
私は再び、此処に降り立つ
田舎町の無人駅
彼の実家最寄り駅前
仰ぐ、青天が高い
堪能する事なく過ぎていく
此の夏の終わりが近いのだろうか
駅構内の荒ら屋如き待合室の木製ベンチに腰掛け
肩から下ろす、犬用キ旅行鞄を置く
以前同様、電車処か人の出入りもない
上部部分を開け広げた瞬間、しゃこの顔面が飛び出す
彼女の腕に両前足を置いて後ろ足のみで立ち、其の場で跳ねる
「上手上手♪」
傍目にも微笑ましい光景を不機嫌顔で眺める白狐の姿があった
其れ如きで褒められるのなら
お前(すずめ)は俺をどれだけ褒めてくれるんだ?
等と、意味不明な対抗心を燃やす
自分の思考に思わず、頭が真っ白になる白狐の存在に
漸く気が付いた、しゃこが遠吠えを上げた
吃驚した彼女が慌てて宥めようとするも白狐が其れを遮る
「構わん、俺は先に行く」
言う也、白毛の身体が青天に映える
振り返る様子もない、其の姿を見送る彼女が一息吐く
取り敢えず戻って来れて良かった
大き目の肩掛け鞄から、しゃこ愛用の引き綱を取り出す
目敏く、おやつの焼き菓子を嗅ぎ付けた
しゃこが大き目の肩掛け鞄の中に、其の小さな頭を突っ込む
「待って待って」
「一個だけ一個だけ」
そうして袋から取り出す
おやつを彼女の手の平から食べる、しゃこに語り掛ける
「ゆっくり、お散歩しながら行きますか?」
自分の用事は「旅行用鞄」の、引き取りだけだ
急ぐ必要等、ない
しゃこは其の顔を上げて「わん!」と、元気良く返事を返した