狐鬼 第一章
彼の声にも
彼の笑顔にも
辛うじて慣れてきた頃
恋心も儚く
計らいも虚しく
彼は夏休みが訪れる前に転校の挨拶をした
「近所に来たら遊びにおいで」
時時、見せるやんちゃそうな笑顔で言われても
田舎町の山奥では近所でさえも先ず行く事はないだろう、と思う
「了解、たかも元気でね」
此れでお仕舞い
私と彼の恋人未満、友達以上の関係も此処迄
私はそう諦めた
彼の落ち着いた心地良い声、彼のやんちゃそうな笑顔
思えば
誰かに、こんなに強く魅かれた事があっただろうか
思えば
鈍臭い自分が、こんなに積極的になれたのは如何してだろうか
ちどりの影響だ
ちどりには感謝しかない
だから
私は今、此処に降り立つ
田舎町の無人駅
彼の実家最寄り駅前
私は彼の声を彼の笑顔を如何しても諦めたくなかった