sakura
「実はですね、松本画伯の高校の母校で、画伯の作品を観ましてね、桜の絵でしたが、150号くらいあるかと思います。素晴らしさに圧倒され感動しました。そんなわけで、画伯の作品を探していましたら、知人がこちらで見たことがあると教えてくれましてね」
「肉筆画は市場には少ないですよね。これは、バブルがはじけた時に、安く購入したものですが、10号ありますから、金額的には三桁になります」
「結構です。ズバリ売値を聴きたいです」
「他では180は言うはずですが、150でいかがでしょうか?」
「小切手を書きましょう。このまま持ち帰りますよ」
「ありがとうございます。誠に失礼ですが、初対面ですから、換金の済むお時間までこちらでお待ちいただけますか」
「もちろんです」
明は事務員に小切手の換金を頼んだ。往復で30分あれば済む距離であるから、絵の話で会話が弾んだ。事務員の河内裕子は、機転の利く女性であった。換金が済むと会社に電話を入れてくれた。
「大変お待たせしました。換金が済みました」
「そうですか、私も安心しましたよ」
無事に商談は成立した。
明はホッとすると、さくらを思い出した。今売った作品は、桜富士の題名のように、桜が描かれていた。