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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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sakura

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別れの気配



さくらから久しぶりにメールが届いた。『お逢いしたいです』とだけの短いものであった。
明はすぐにメールを返すつもりで、携帯を手に持ったのだが、以前のように、さくらへの会えるという気持の高揚感がなかった。メールを見た時には、明日に会おうと思いながら、わずかな時間で、気持ちが変化していたのだ。明の気持ちの中には、レモンの化粧なしの素朴な美しさが残っていたのだ。
 さくらに会えば、ふくよかな体に触れられる。欲望が満たされる。そのために、その場限りで済む、サイトで女性を探したのだ。何故か、明はさくらに会いたいと思う気持ちがなくなっていた。自分でも分からないが、そうしなくては駄目だと、誰だか分からないが、教えてくれている。妻の声なのか、子供たちなのか、神なのだろうか?
 明は【今のところ時間が作れませんから、数日後にメール入れます】とメールをさくらに返した。数秒でさくらから返信が届いた。【支払いのお金が足りませんので、お逢いしたいです】・・【銀行を教えてください。少額なら振り込みします】・・【本名は知られたくありませんから、逢いたいです】・・【5日ほど先になりますよ】・・【これから足利に行きます。5万円お貸しください】・・【JR足利駅でお会いします。待ち合わせの時間を教えてください】・・【北関の高速で行きますから、1時間後に着きます】・・【了解しました】
 明は時計で時間を確認した。1時50分である。2時40分に駅で待とうと思った。
 明は予定の時間に駅に着いたが、時間前であり、さくらの車がないことを確認して、駅前の食堂に車を止めた。駅が見渡せる距離であり、歩いても1分あれば駅に着く距離である。
 さくらは3時5分前に駅前に着いた。明にメールを入れると、車の前に明が立っていた。返信待ちをしていたさくらはスマホを落としそうになった。
「ここは駐車できないから、前の食堂に車を移動して」
「はい」
 明が歩いて駐車場に着いたのに、さくらはまだまごついていた。明は手を振って合図をした。
 車を止めたことで、3時と言う中途半端な時間であったが、食堂に入った。うどんのチェーン店だから、食べられる量である。暇な時間帯でもあり、客は高校生の3人だけであった。
 セルフの店なので、明とさくらはお盆を持ち、テーブルに着いた。
「5万円あります。確認して」
「はい。ありがとうございます。確かに5万円お借りします。借用書を書きます」
「それはいいよ。その代わり、顔の写真を撮らせてくれる?」
「いいですよ。本当はこのままホテルに行きたいですが・・」
さくらの誘いの言葉は今の明の気持ちに入り込むことはできなかった。
「今日は仕事があるから、また連絡するからね」
 明自身、自分がさくらに返した言葉を疑うほどであった。体はさくらを明らかに求めているのが判るからだ。
「残念だなぁ。現金では返せないですよ」
「分かってますよ」
 2人はお盆を持ち、返却場に持って行った。そして、出口に向かった。
「明さん、新車乗ってるんだね。少しだけドライブしたいな。いいでしょう」
 前回逢った時は、明はさくらに夢中であった。その感じはさくらにも伝わっていたのだろうと明は思うと、急に態度を変えてしまうことはできないと思った。
「30分くらいなら」
「嬉しいな」
 もちろんさくらは助手席に乗った。急に30分のドライブと言っても、適当な場所が見つからない。山火事がなければ、織姫山が丁度良かったのだが
「適当に市内を走るからね」
「ここが鑁阿寺。足利尊氏の先祖の発祥の地だから、誰だか忘れたけれど祀ってあるらしい。このすぐ先は、足利学校、日本で1番古い学校だそうだ」
 さくらは明の身体に頭をつけて
「眠くなったわ」
 と言った。
「すぐに戻るから」
「仕事はどうでもいいじゃないの。ホテル行きたいな」
 さくらは自分自身の変わりように哀れささえも感じながら、明を頼りにしていることが、明にお金をねだることが、今は平常心でいられることに、驚きを感じてもいた。たぶんこのまま付き合い続ければ、もっと多くのお金をせびるかもしれないと、思う自分が恐ろしくもあった。
 明は‎さくらに
「今日は付き合えないよ」
と言った。
 さくらはその言葉は『さようなら』と言ったのだと感じた。
 教師に戻ろうと、さくらは思い始めていた。































 














   

 











































 
















作品名:sakura 作家名:吉葉ひろし