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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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sakura

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 レモンはテーブルの上に、小さな木箱を置いた。
「お金の代わりに、これでお願い出来たら嬉しいのですが・・」
 箱書きには田村耕一と書かれていた。地元の陶芸家であるから、明は作品は持っていないが、美術館で作品は観ていた。小皿に柿の実が描かれていた。明は陶芸に関しては全くの素人であるが、落ち着いた作品の雰囲気が気に入った。
「お預かりしておきましょう」
「お支払いする金額はいつ出来るか分かりませんから、代金にしていただけませんか」
「そうですか、鑑定していただき、金額が多ければお返しします」
「ありがとうございます。祖父が購入したらしく、大事にしていましたから、修理代金くらいにはなると思います。不足額が出ましたら、請求してください」
「人間国宝の方ですから、不足と言うことはないと思います。ただ偽物でしたら、そうなりますが、その時はまた考えましょう」
「分かりました」
 レモンはカギを受け取ると、車のエンジンをかけた。
 明は
「お気をつけて」 
と言葉をかけながら頭を下げた。
 翌日、知り合いの骨董店に出向き、レモンの持ち込んだ作品を見せた。彼は自分で陶芸もするだけあって、かなりの目利きである。
「田村先生のものですよ。絶頂期の作品ですから、欲しいという方なら100万円は出しますよ」
「ありがとう」
「うちで買いたいな」
「お客様からの預かりものですよ。車の購入資金にしたいそうで」
 明は念のために、もう一軒の店に益子町まで足を延ばした。
 浜田庄司や島岡達三と言った有名な陶芸家の窯元である。
 「田村先生の作品は特徴がありますから、贋作ではありません」
 明は金額の事は訊かなかった。3万円の鑑定料を支払い、鑑定書を受け取った。 翌日、レモンに電話を入れた。
「田村先生の作品は、予想以上の金額になりそうです。知り合いの骨董店がありますから、そこで買いたいと言ってますが、いかがでしょうか?」
「そうですか、少しでもお金になれば嬉しいです」
 レモンはこれから足利に向かうと言った。明はすぐに骨董店に電話を入れた。
「先日の田村先生の作品売りたいそうだ。掛け値なしでいくらになりそうだね」
「70なら即金で買いますよ」
「よろしく頼みます」
 レモンが店に顔を見せたのは3時間ほどしてからであった。明はその、待つ時間が、異常に長く感じた。何か仕事をしていれば、そんなことはないのだろうが、ただ、明はレモンの来るのを待っていたのだ。
「遅くなりました」
 レモンのその一言で、明はイラついた気持ちが、消えた。何故だろうと明は不思議な気分になっていた。
「店迄、僕の車の後を付いてきてください」
「佐野の近くでしたら、またこちらに戻りますから、そちらに乗せていただけませんか?」
「構いませんが・・」
「ありがとうがざいます」
 骨董店までは30分ほどの距離であった。レモンは後部座席に乗ったのだが、明からは、バックミラーで彼女の表情が良く見えた。化粧をしたら、タレント異常に美しいだろうと思えた。
 レモンは黙っていた。明も、言葉をかける言葉が見つからなかった。骨董店に着くまで、ほとんど無言であった。
「有名な有田焼の美術館はここですか」
「世界一だそうです」
 ただこの短かな会話だけであった。
 店に入ると
「店主は田村先生の作品お譲りいただけるそうで、ありがとうございます。
代金はこちらにご用意いたしました。お確かめください。70万円あります」
「助かります。こちらこそありがとうございます」
 明は美しい女性でも、紙幣を数えるのに、指を舐めるのを初めて見た。出された
お茶を捨て、茶碗に水を入れて、レモンの前に出した。
「これを使ってください」
 レモンはすでに紙幣を数え終わっていた。用意された領収書に名前を書いた。印鑑は持っていないらしく、拇印を押した。 
「前島レモン様これで売買契約は済みました」
 帰り道
「お礼をしたいです。ランチでも行きましょう」
 とレモンが言ったが、午後2時を過ぎていた。
 明はこれ以上レモンにかかわっては、駄目だと自分で分かっていた。
「幼稚園のお迎えとかあるのでは」
「保育園ですから、時間はある程度融通が利きます」
「修理代金が戴ければ、僕は当然のことをしただけですから、お礼は結構ですよ」
「そうですか」
 レモンは明が書いた領収書を受け取ると車に乗った。
作品名:sakura 作家名:吉葉ひろし