sakura
揺れる心
「あなた結婚してる?」
初めてついた客であり、突然の言葉にさくらは戸惑った。適当に答えればよいのかもしれないが
「結婚は考えたことありません」
と、本心を言った。
「今の人は多いわよね。結婚しない方」
「私は仕事が楽しいからですよ」
「それはいいわね。私は専業主婦なの、夫の世話と子供の世話、子供は1人で大学出て働いているから、ほとんど夫の世話よ。でも、夫の浮気が判ったの。腹が立って、憂さ晴らしがしたかったわけ。ホストクラブにも足が向いたけれど、ここにしたのよ。分かるかな?離婚したくないから、私は経済力がないし、働く能力もないのよ。夫にしがみつくって、惨めよね」
さくらは明との関係が頭をよぎった。浮気なのか、遊びなのか、いずれにしても、妻以外の女性である。妻に知れたら、喧嘩の種にはなるだろう。
まだ50前に感じられる。さくらには身体からある程度の年齢が判るのだ。
「お酒飲んでの出来心だったら、大目に見たほうが、離婚しないんでしたら、それが円満でしょう」
「そうよね、だから、悔しいのよ。我慢、我慢。女は損よね」
夢の結婚。夢の家庭。接する人が多くなれば、たとえ、家族であっても、そのための苦労は、1人で暮らすことよりは、必然的に増すのは仕方ないことなのだ。
「気持ちいいわ。少し、憂さ晴らしできたわよ。ありがとう。少ないけれど」
「チップは禁止ですから、お気持ち嬉しくいただきます」
「分からないわよ」
客は強引に渡そうとした。
「カメラで全て分かってしまいます。」
「そう。あなたに迷惑はかけれれないわね。休みの日に食事しましょう。それならいいでしょう」
さくらが返事をする前に
「顧客カードにある電話でいいわよ」
と言った。
さくらは自分の行動も、自分がお金に困ってしたことなのだが、自分だけのことだけを考えていたことに気づいた。 人の運命などは、誰が操っているのか、さくらはコロナが一般の人たちが思うより、憎い。全く今までは感じたこともなかったが、中国の人たちまでその感情は広がっていた。自分の人生が狂ってしまったからだ。もっと早く手を打っていればこんなに広まなかったのではないかと思うからだ。
公務員や年金生活者には、経済的なダメージは少ないのに、接客業は死活問題なのだ。さくらは運命の差別的な残酷さを感じた。
生きていかなくては、負けられない。お金が欲しい。やはり、自分のプライドは捨てて、生きて、負け犬にならないために、今必要な金のために・・・・・
迷い続ける。明に返信したらよいのかと。