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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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「キコちゃんはちょっと小さい」〜完結編〜

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13話目「俺は君を知ってる」






キコちゃんは俺が「好き」と言ったのを聞いて、思い切り驚いてくれた。

「ほんと!?本当ですか!?キコも!キコも好きです!好きですよ、一也さん!」

俺の手の上で、彼女は両手を広げたり振り回したりして、小さな体で一生懸命愛情を表現してくれた。俺は彼女を落とさないように両手で包まなきゃいけなかったくらいだ。俺はそれが嬉しくて嬉しくて、どうしても熱くなる頬を見られたくなかったけど、ちゃんと俺の気持ちがわかってもらえるように、彼女を前にしたまま微笑んだ。俺は幸せだった。

「ありがとう、キコちゃん」

よかった。君に言えた。俺はほっとして、まだ少し目の端に残っていた涙を拭った。

それから、キコちゃんの髪を撫でながらベッドに連れて行く。幸せそうに俺を見上げる彼女を想像してベッドに座ったときの顔を見てみると、なぜか彼女は悲しそうにうつむいていた。

え?急にどうしたんだろう?

でも、俺はわけを聞く前に、彼女の顔に深刻な陰を見た。そこで俺はずっと悩んでいたことを思い出し、開きかけた口をまた閉じてしまった。


もし、俺たち二人の違いはやっぱり越えられないものなのだと、これから彼女が証言するのだとしたら?俺はそう思ってしまって、彼女に伸ばそうとした手も、先へ進まなかった。

俺は確かに“違いなんか関係ない”と思えたけど、キコちゃんにとっては実はそれは大きな問題で、それが俺の力ではどうにもできないものだったら?俺たちが一緒にい続けるには、“好き”だけじゃ足りないとしたら…?

気持ちが通じ合ったのはついさっきのことなのに、最後の壁を突き破らないうちは彼女にふれられない気がして、俺は歯がゆい痛みに胸を責められる。


キコちゃんは顔を上げて、俺を見つめた。そしてちょっと笑ってから、彼女はまたうつむく。その目は頼りなく、心細そうだった。

「私…小さいですよね…」

俺はそれにどう答えたらいいのかはわからなかったけど、彼女を傷つけたくなかった。

「そうだね。でも、かわいいよ」

キコちゃんは真っ赤になって、恥ずかしそうにそっぽを向く。それからワンピースの裾を指でいじくりながら、ちっちゃな声で話し始めた。俺はそれを、祈るような気持ちで聞いた。

「“小さいから、きっと相手にしてもらえない”…そう思っていたんです。一也さんを好きになったとき、私…まだ“好きになった”って気づかなくて…でも、わかってからは、なおさら言えなかったんです…だって私、小さいから…一也さんになんにもしてあげられなくて、お世話してもらってばかりだから…!」

そう言い終わる前から、キコちゃんはこぼれる涙を拭っていた。


なんてことだ。俺たちは二人ともが同じように悩んでいたのか。でも、絶対に拭えないものなんかじゃなかった。それで俺は息をゆるめることができた。

俺はすぐにキコちゃんを持ち上げて抱きかかえた。もちろん、キコちゃんが痛くないように気をつけて。

今こそ彼女に言わなくちゃ。


「…一也さん…?」

「キコちゃん、俺も同じことを考えてたよ」

「同じこと…?」

「だって、俺が君にしてあげられることは、もしかしたら普通よりずっと少ないんだ。だから、君が俺を支えてくれてるのに、俺は君にほとんど何もしてやれないんじゃないかって思って…」

「そんな…」

「本当に、君の力は大きいんだよ、キコちゃん。君がいなかったら、俺にはできないことがたくさんあるんだ」

「そうなんですか…?でも、私、一也さんに好きになってもらうには、小さすぎて…」

キコちゃんはまた自信なさげにうつむいた。その時、俺の口からあっという間に衝動が滑り出す。

「そんなことない!俺は君がいるだけで嬉しいんだから!それに、俺は君を知ってる!…優しい子だって、知ってるよ…それでいいんだ…」

俺は、俺とキコちゃんの違いについて悩んでいたとき、それを蹴っ飛ばすしか方法を知らなかった。でも、本当は俺の知っているキコちゃんを信じればよかっただけだったんだ。そのほかのことを見る必要なんかなかった。

俺はそれを彼女にもわかってほしくて、もう一度、「俺は、君が優しいって、知ってる」と繰り返した。