Solid contact
あの本音を知っているのは、この鏡に映ったわたし自身だけのはずだ。矢田川先輩のことを邪魔だと思っていたことは、高地くんはもちろん、志和さんすら知らない。そういう風には、一度も話していないのだから。
当時は工事中で、何も置かれていなかった建物。ほとんど暮れて紺色になった空の下で、またわたしを映しているけど、その正体は一方通行の窓だ。わたしは窓に近づいた。あの被害者面は、まさか、本当に受け入れられたのだろうか。この後ろにいた誰かの手によって。もしそうなら、わたしの首にかけられたメダルは、この後ろで聞いていた誰かが授けたことになる。
でも、当時こんな場所に立ち入りできたのは、工事業者と大学の関係者ぐらいだったはずだ。関係者といっても、戸締りを確認する守衛ぐらいだろう。でも、正義の味方は、何だって正そうとする。それが本人の正義に叶えば、邪魔ものを代わりに蹴落とすことだって。そんなことをやってのける人間は、当時の狭い人間関係だと、ジャンガリアンぐらいしか思いつかない。
「そうじゃないよね? わたしが、頑張ったんだよね?」
窓に触れて、自分の顔に向けてそう言ったとき、内側からごつんと蹴られた窓が揺れて、鏡映しになったわたしの顔が一瞬歪んだ。そしてその声は、わたしよりも頭ひとつ分低かった。
「違う」
作品名:Solid contact 作家名:オオサカタロウ