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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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「キコちゃんはちょっと小さい」〜出会い編〜

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ここの店長はけっこう古い料理人で、平気でキッチンで怒鳴ったり殴ったりするので、バイトがどんどんやめていく。まあ俺は払いがいいバイトはやめないけど。それに、雑用はそこまで被害ないし。俺なんかより、調理を手伝ってるアルバイトの方が酷い目に遭っている。

でも、どうやら店長の腕前は確かなようで、調理補助のアルバイトはやめることは少ない。

あれは料理修行なんだろうなと思って、俺も後ろの洗い場から、時々それを覗いたりしていた。


俺が割れたジョッキの欠片を集めていると、ガラスの切り口がちくっと指に刺さった。すぐに赤い血が流れ出す。

「あ、やべ。店長、絆創膏ないですか?」

「いちいち俺に聞くんじゃねえ!事務所で探せ!どうせ女のことでも考えてぼやぼやしてたんだろうが!」

一瞬、俺はどきっと図星を突かれたような気になってしまいかけたが、多分違うと思う。少なくともキコちゃんは「俺の」女ではない。この場合、多分そういう仮定で話が進んでるんだろう。

「そんなんじゃないっすよ」

「男はみんなそう言うのさってな」

ざっくばらんなのか荒っぽいのかよく分からない店長は、天ぷら鍋に夢中になったまま、ため息みたいにそう言った。


もし今この場で「手のひらサイズの落ち着きのない女の子を家に置いてきたので、何かないか心配なんです」と言ったらどうなるだろう。やめとこう。「ふざけたこと言ってんじゃねえ」って殴られるだけだ。


俺はどこかもやもやとした気持ちを抱え、そこからは淡々といつも通りの仕事をした。