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恐怖落語 『心霊スポットの案内人』

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B「だって、この吊り橋、幅がこれっきゃないじゃないですか、とてもじゃないけどすれ違えませんよぉ」
A「ええ、すれ違う必要はないんです」
B「ど、どういうことですかぁ?」
A「さっき『人』が向かって来るって言いましたけどね、正確には『人のように見える、別の何か』なんですよ」
B「やっぱり~っ?」
A「構わず真っ直ぐ歩いて行けば、ふっとすり抜けられます」
B「すり抜けるって、霊を通り抜けるんですかぁ? それって一瞬霊と重なるってことじゃないですかぁ」
A「大丈夫、付いて来たりはしませんから」
B「付いて来なくたってそれは嫌ですよぉ」
A「ちゃんと聞いておいて欲しいのはこの先なんですけどね」
B「霊と重なりたくない、重なりたくなんかないですけどぉ、いったい何に気を付けろって言うんですかぁ?」
A「霊を通り抜けてほっとした瞬間にですね、足元の板がバキッと……」
B「落ちるじゃないですかぁ、湖に落ちるじゃないですかぁぁぁ、この高さから水面に叩きつけられたら気を失って溺れるかもしれないじゃないですかぁぁぁぁぁ」
A「湖の底には溺れた人の霊もいるらしいですよ……落ちた人に取りすがるらしいですよ『こっちへおいで、こっちへおいで』って……」
B「死にます、それは死にます、今までに一体何人死んだんですかぁ」
A「いえ、大抵の人は板が割れても咄嗟にワイヤーにつかまりますからね、落ちませんよ」
B「大抵の人は、って、落ちて死んだ人もいるってことじゃないですかぁ、ねぇ、戻りましょうよ、ここから戻りましょうよ」
A「ヘアピンカーブとトンネルと電話ボックスを通ってですか?」
B「違う道を行きましょう、違う道を」
A「道は一本しかありませんよ、ここまで分かれ道とかなかったでしょう?」
B「じゃぁ山に分け入って……熊とかいませんよね?」
A「熊はいないようですよ、でもコウモリとか毒蛇とかならうじゃうじゃいますけど……」
B「わぁ、いったいどうすりゃいいんですかぁぁぁぁ……あ……」
A「何か?」
B「ボートがありますよ、ほら、岸辺に遊覧ボート乗り場があります、降りて行く階段もある、ここから下へ降りてあのボートで対岸へ行きましょうよ、向うは明るいですよ」
A「ああ、なるほど……でも湖の中にも」
B「スルリ、バキッ、ドッパーン、ブクブクよりましでしょう、溺れ死にしなくてもこれ以上はもう心臓が持ちません」
A「そうですか? じゃぁそうしますか?」

 二人は湖畔まで下りて行きましてスワンボートに乗り込んで漕ぎ出します。

A「男二人でスワンボートってのはちょっと間抜けですねぇ……どうでした? この湖の心霊スポット巡りは」
B「ええ、怖かったです……勉強になりました」
A「ははは、勉強にね……心霊スポット巡りはこりごり、もうしないってことですか? いや、正直に白状しますとね、今までの心霊話は全部嘘、方便なんですよ、ちょっと前にここがテレビで心霊スポットだなんて紹介されましてね、地元の者からすれば全部やらせだってわかるんですが、あなたのような物好きが沢山やってくるようになったんですよ、中にはマナーの悪いのもいましてね、地元じゃ迷惑してるんですよ、それであんな作り話をね……」
B「いや……そうじゃなくて……」
A「そうじゃなくて?」
B「人を怖がらせるにはどうしたら良いか、勉強になったってことなんです……」
A「???……どういうことですか?」
B「いえ、新米なもんで怖がらせ方がわからなくって、勉強に来たんですよ、ここは怖いって聞いたものですから……」
A「新米? 新米の何ですか……?」
B「おかげさまで一人前の霊としてやって……行けそうです……」
(手の甲を向けてそのままお辞儀)