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恐怖落語 『心霊スポットの案内人』

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 落語の世界ですと、居酒屋で隣り合わせた者同士が『お銚子が届くまで一杯いかがですか』『こりゃどうも……お、こちらのも届きました、ではご返杯』なんてやりとりから友達になるなんてことが良く起こりますが、現代ですとなかなかそう言うこともなくなってまいりました……でも同じことに興味を持つ者同士で、そこがそのメッカだったりすれば少し話は変わってくるようで……。

A「失礼ですけど、もしかして心霊スポット巡りですか?」
B「はい……お詳しいんですか?」
A「ええ、まあ、この辺りに住んでおりますんで」
B「そうですか、それならお詳しいんでしょうね」
A「なんならご案内しましょうか? 夜も更けて来たことですし、そろそろ霊の出番じゃないかと」
B「本当ですか? それはぜひ……いや、ここまで来たのは良いんですが、独りではちょっと怖くなってしまいまして、やっぱりやめて帰ろうかと思ってたとこなんですよ」

 そんなわけで、居酒屋で隣り合わせた二人、ちょいと酒の勢いも借りまして心霊スポットにやってまいります。
 二人がまずやって来たのは古いトンネル、当然照明なんぞありません、懐中電灯だけが頼りです、壁のコンクリも手作業で塗ったように凸凹、そこかしこにひびも入っている様で、ぴちゃ、ぴちゃと水滴の音、路面も出口からの光に照らされて光っております。

B「気味が悪いトンネルですねぇ」
A「古いトンネルには怖い話がつきものですからね」
B「例えば……?」
A「友達の友達から聴いた話なんですがね……暗いトンネルを進んで行くと、後ろからペタペタと足音がする……裸足の足音なんですね……トンネルに入る時後ろを確認したけど誰もいなかったはず……心霊スポットで有名なトンネルですからね、『来たな……』と思ったわけなんですが、想像していた以上に怖い……振り返って後ろを確認したいけど、どうにも身体が言うことを聞かない、でも動こうとしない体を無理やり捻じ曲げて振り向くと……『ワッ!』」
B「うわっ、びっくりした! 急に大きな声を出さないで下さいよぉぉぉ……」
A「ごめんなさい、冗談ですよ、実際に聴いた話はこうです……恐る恐る振り向くと……誰もいない……気を取り直して歩き始めると、またペタペタと足音がする……で、もう一度振り返って見るけどやっぱり誰もいない……で、とにかく早くトンネルを抜けてしまおうと走り始めると今度は足音が付いて来ないんですよ……振り切ったかなと思って立ち止まると微かに『クッ、クッ』と押し殺したような笑い声が聴こえる……振り返って見ても左右を見ても誰もいない……で、ふと天井を見上げると……『よく気が付いたわねぇ』」
B「ひぃ……怖いです……そっちの方が怖いですよぉ……」
A「それがこのトンネル」
B「……マジっすか? このトンネル?」
A「そう、このトンネル」
B「やっぱ帰ります……」
A「まあ、それを体験したのは友達の友達一人だけですよ、滅多にあるもんじゃありません」
B「滅多にないって、それはたまにはあるってことですよねっ」
A「まあ、たまにはあるのかも知れませんけど……帰るのは勝手ですけどね、せっかく来たんですからね、この先へ行ってみたくはないですか?」
B「そ、それは……行きたいけどちょっと無理かも……」
A「私は行きますよ、心霊スポット巡りは久しぶりだ、ここまで来て途中で止める手はないですからね、じゃ、気を付けて帰ってくださいね……あ、さっき通った道に電話ボックスがあったでしょう?」
B「え、ええ……」
A「今時電話ボックスって……珍しいでしょう?……しかもこんな田舎の道端に……辺りには民家すらないのに…………誰が使うんでしょうね?」
B「ひぃ…………」
A「あそこを夜中に通りますとね、時々電話が鳴り出すことがあるんですよ……でも絶対に顔をそっちに向けちゃいけません……目が合うと付いて来てしまいますからね」
B「目が合うって、誰と目が合うんですかぁぁぁ……付いて来るって、誰が付いて来るって言うんですかぁぁぁぁぁ……」
A「さあ、私も知りませんよ、それが誰の霊かなんてことは……じゃ、気を付けて」
B「あ、待って、独りにしないで! 付いて行きますからぁ!」

 二人は尚も暗い山道を進んで行きます。

B「暗い道ですね」
A「ああ、でも目が慣れて月明かりだけでもなんとか見えるでしょう?」
B「ええ……まぁ、なんとか……」
A「この先のヘアピンカーブですけどね……ガードレールが一部分だけ新しくないですか?」
B「言われてみれば……他より白いですね……」
A「大体想像がつくでしょう? 暗い山道……ヘアピンカーブ……一部分だけ妙に新しいガードレール……」
B「……事故……ですか?」
A「ええ、これはそんなに古い話じゃありません、私の友達の友達の兄貴なんですがね……夜中に恋人とメールをやり取りしてましてね」
B「どんなやり取りだったんでしょうね」
A「知りませんけど、まぁ、夜中ですし、男と女ですから……それでどうにも会いたくてたまらなくなって車を走らせた……気が急いていたんでしょうかね、スピードを出し過ぎて……」
B「……(ゴクリ)……」
A「遺体の様子からして即死だったようですよ、まだ彷徨っているところを見ると自分が死んだことに気が付いていないのかも知れませんねぇ……」
B「そ、その霊は何もして来ないんですよね……」
A「ええ、害になるようなことは何も」
B「……害にならないようなことは?……」
A「しぃっ……耳を澄ませてごらんなさい」
B「え?……な、なんですか?……」
A「小枝が折れる様な音が聞こえて来ませんか?」
B「……かすかに聞こえて来るような……来ないような……」
A「夜ここを通る人間は滅多にいませんから、人恋しいのかもしれませんね」
B「まさか……谷底から?……」
A「音が止みましたね」
B「……た……確かに……でも誰も登っては来ませんでしたよね」
A「そりゃ、霊ですから見えなくても不思議はないでしょう?」
B「……と……言うことは……」
A「その辺りにいるかもしれませんね」
B「その辺りにってぇぇぇ……どの辺りですかぁぁぁ?」
A「あなたの足元に」
B「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

A「はぁはぁ……やっと追いついた……もう……いきなり走り出すんですから」
B「で……でも……何か冷たいものが足に触ったような気が……」
A「やっぱり?」
B「やっぱり……ですか? 誰か通ると触るんですね? 見境なく」
A「でも害はなかったでしょう?……」
B「ええ、なかったですとも、心臓が止まりそうになった以外は何も……」
A「おや、夢中で追いかけて来たんで気が付かなかったですけど、この吊り橋の袂まで来ちゃいましたか」
B「吊り橋?……ひぃぃ……本当だぁ……」
A「じゃ、渡りましょうか」
B「ちょ、ちょっと待って……この吊り橋にもなにか……」
A「ええ、知らずに渡ると危険ですから良く聞いておいてください」
B「今度は害をなすんですかぁ?」
A「ちゃんと知ってれば大丈夫ですよ……この吊り橋を渡り始めると……」
B「渡り始めると?」
A「向うからこっちへ人が向かって来るんです」