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58の幻夢

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4.覗き見るもの



 真っ暗な部屋の中、目の前には陰茎を手で扱く男。呼吸は少しずつ荒くなり、手の動きもそれにつれて速くなる。やがて呻き声とともに、陰茎から白い粘液が溢れ出す。

 私は「淫乱女教師誘惑ファック.mp4」という動画である。元々は、動画作成者によって動画サイトにアップロードされていたが、今はこの男にダウンロードされ、PC内のHDDに居場所を与えられている。男が私で自慰をするようになって、既に数日が経過していた。
 男は、私の14分22秒頃から始まる、女性が乳房で男性器に刺激を加えて性的興奮を与える、俗に言う「パイズリ」のシーンを特に好んでいるようだ。シナリオ的には、性交に至る前の前戯であるにもかかわらず、男はこのシーンで射精し、果ててしまう事が何度もあった。
 ちなみに、私の友人の「痴女ナース、患者を逆レイプ.wmv」によると、その動画で男が最も興奮する箇所は、騎乗位で交わっている女性の乳房を接写しているシーンらしい。

 どうやら男は、豊かな乳房の振動に執心しているようだ。


 ところで、先日事件があった。自慰の最中に男の母親とおぼしき女性が、部屋の扉を開けたのだ。男は、用事の際は必ずノックをする事と、今すぐ立ち去る事を苛立った口調で要求した。しかし、その母親とおぼしき女性は構わず部屋に入ってくる。二人はしばらく口論をしていたが、その最中も動画再生によって流れる音声、即ち動画内の女性の嬌声が響き渡っており、男はきまりが悪そうな様子だった。この事件以来、男はヘッドホンを常に用いるようになり、そして再生時は必ず部屋に鍵がかけられる事となった。

 男がジョークグッズを用いて自慰を行う事もあった。俗にオナホと略されて呼ばれているそれであるが、毎度用いるわけではなく、月に数回の頻度で使用していた。恐らく、他者に発見された際の恥辱が通常の自慰行為よりも大きい事、射精後の処理が面倒な事といった理由で、家族の外出の機をうかがって使用していたと思われる。


 ……そしていつしか月日は流れ、私はめっきり再生される事がなくなっていた。

 久々に再生された時、男はファイルの整理をしているようだった。
「こんなのもあったなあ」
という独り言の後、私はごみ箱に放り込まれる。私は、自身が用済みである事を悟った。長い事「使用」してもらったので、別段恨み等はない。願わくは、この男が豊かな乳房の振動を堪能させてくれる素敵な女性と、親密な間柄にならん事を祈っている。


作品名:58の幻夢 作家名:六色塔