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58の幻夢

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30.16+16=



「あ、やっべ」

近所のカフェ。その日受けた資格試験の答えあわせを友人と共にしていた俺は、思わず大声を出していた。最終問題。その計算の中で、かなり情けないケアレスミスを犯していたのに気づいたからだ。

 16+16=

小学校で教わった通り、この答えは『32』。それを俺は次のように計算していた。

 16+16=36

 この致命的なミスにより、どうやら俺は、合格点を3点ほど下回って不合格という事になった。がっくりと肩を落としてカフェオレを飲み干し、伸びをしながら小声で呟いた。

「あーあ、16+16が36になりゃいいのに」



「……なに、お前もダメだったん?」

記念で受験したと言う友人が、ちょっとホッとした表情で俺の解答メモを奪い取る。友人はそのメモをしげしげと眺めた後、投げつけるようにこちらにメモを返して言った。

「あんだよ、受かってんじゃん。別に俺に気ぃ使わなくたっていいのに」

俺は、頭の上で疑問符にダンスを踊らせながら問い返した。

「いや、この最後の問題。しっかり間違えてんじゃん」
「いやいや、あってるっしょ。16+16=36」

こいつ、さっきの俺の独り言が聞こえたから、からかってんだな。

「おい、小学生でも間違わねえだろ。16+16=32」
「いやいやいや、小学生でも間違わねえよ。16+16=36」

もう、マジ不合格でへこんでんだからやめろや。

 俺はポケットからスマホを取り出し、電卓を起動して16+16=とタップした。そして、画面を友人の顔に押し付けるようにして見せつける。

「ほら、これでわかったろ。俺は不合格なの」

しかし、友人は首を傾げて苦笑いをし、俺の手を取ってひねり、画面を俺の眼前につきつけた。
そこには『36』という数字があった。



 この出来事以降、俺は電卓という電卓を掻き集めて16+16を計算し続けた。結果は、判で押したかのように全て『36』だった。
 ところが、おかしな事に18+18も『36』らしい。だが、32-16や32÷2は『16』なのだ。160+160は『320』だし、1.6+1.6も『3.2』。すなわち、16+16の答えだけが法則から外れてしまった事になる。
 しかし、永遠に続く数字の世界で、法則から外れたのがこれだけだとなぜ言い切れようか。

 しばらくして、試験の結果が届いた。不合格かもと一縷の望みを抱き開封したが、合格していた。

「どうして、こうなった……」

 不確かな世界を呪いながら、俺は通知書を破り捨てた。


作品名:58の幻夢 作家名:六色塔