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58の幻夢

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48.ぼんくら



 ああ、美弥さんを溺死させたのはやはりあなたでしたか。よく自供して下さいました。実はもう少しであなたのアリバイを崩せそうだったんですが、この自供のおかげで手間が省けました。

 で、これからどうされるおつもりで? ふむ、自首をする予定? 殺したのは一人だし、初犯なので執行猶予がつくかも、と。

 ……どうされました? 扉が開かない?

 ……でしょうね。鍵、かけましたから。なぜかって? そりゃ、あなたに自首してほしくないからですよ。

 今、あなたの周囲及び頭上に、透明なガラス板が現れたと思います。これは床にぴたっと接地して、蟻の這い出る隙間もありません。例えるなら密閉された電話ボックスです。そしてこれから、中に水を流し込もうと思います。

 ええ、あなたも美弥さんのように、溺れ死んでもらおうと思っているんですよ。その為にわざわざこの装置を用意して、あなたを待っていたんです。

 何でこんな事をするかって? 別に、美弥さんの敵討ちなんかじゃありませんよ。あなたこそ、探偵は善人だなんて、勝手に美化していませんか? 世の中には、人を陥れたくて探偵になる方がいれば、人を殺したくて探偵をやる方もいらっしゃるんです。例えば、行く先々で常に事件に遭うあの探偵や、犯人を指摘した後に犯人の自決を黙って見ているあの探偵。彼ら、何にも裏がない正義の味方だと思ってました?

 可哀想に、本当に思っていたんですね。じゃ、私の事も、いっつも犯人に死なれているぼんくら探偵だと思っていたんでしょ? ですよねぇ。私が手がけた事件、犯人みんな自殺した事になっていますから。でも本当は、全員私に殺されていったんです。焼死、圧死、墜落死、……生きたまま斬首された方もいましたっけ。

 ん? 木内警部がどうかしましたか? 彼は表向き確かに名警部で通っていますが、実際はただのぼんくら警部ですよ。常に私の説明を鵜呑みにして事件を片付けてしまう、そんなワトソンにもなれない男です。きっと今回も、『犯人は全てを告白した後、罪を悔いて自ら命を絶ちました』と私から説明すれば、彼はすぐ納得するでしょう。

 さて、水が流れ出てきました。人を殺して良い気になっている奴が、苦しんで死ぬのはたまりませんね。まあ、こんな事をしている私も恐らく碌な死に方はしないでしょうが、その時が来るまではこの娯楽を楽しむことにしましょう。


 それじゃ、ごきげんよう。ぼんくら犯人さん。


作品名:58の幻夢 作家名:六色塔