58の幻夢
58.夜喰鳥
昔々あるところに、朝がやってこない国がありました。
その国はいつも夜なので、どこもかしこも真っ暗やみです。そんな状態ですから、みんななかなか仕事や勉強が進みません。王様は、とても困っていました。
そこで王様は一計を案じ、家来に立て札を立てさせます。
『この国を朝にさせた者には、王様が何でも褒美を与えよう』
こうして王様は、闇を振り払える者を募ってみたのです。
立札を立ててから、しばらくたったある日。ぼろをまとった一人のおじいさんが、のそのそとお城にやってきました。
そのおじいさんは、王様に言うのです。
「この国を朝にするから、めがねをたくさんおくれ」
王様は不審に思いました。普通、金や銀、財宝を欲しがるはずなのに。しかも相手は、ぼろを着たみすぼらしいおじいさん。どうせからかいに来たんだろう、そう思って相手にしませんでした。
しかしおじいさんは、次の日もやってきます。そして昨日と、同じことを言うのです。
「この国を朝にするから、めがねをたくさんおくれ」
今度も王様は断ります。するとおじいさんは、毎日毎日お城に来て、同じことを王様に言い続けるのです。
これには王様もついに折れ、おじいさんに数十個のめがねを投げつけて叫びました。
「ほれっ! 早く朝にしろっ!」
おじいさんは、床に散らばっためがねを拾い集めて、自分のぼろぼろの服の中に入れました。すると両そでからめがねをかけた小鳥が、たくさん飛び出してきたのです。
その小鳥たちは、夜空に力強く舞い上がっていきます。でもそれっきり、なにも起きませんでした。
「ほれ見たことか! やっぱりわしをからかったんじゃ!」
王様はカンカンになって怒鳴ります。
ですが次の瞬間、真っ暗な夜空に針穴のような、一点の光が見えました。するとその光は次第に数を増していき、やがて一面真っ青な空になったのです。
「鳥たちは夜目がきかないから、めがねが壊れたら代わりをあげておくれ。それと彼らも休まなきゃならんから、一日の半分が夜なのも我慢しておくれ」
おじいさんはそう言い残すと、目の大きな鳥になって飛び去ってしまいました。
今でもその国では、夜が明けるのは夜を食べるめがねをかけた鳥――夜喰鳥(よはみどり)が夜を食べるからだと伝えられており、夜空に瞬く星々は、彼らが夜をついばんだ跡だと考えられています。そして他の鳥たちが朝きれいな声で唄うのは、仕事から戻ってきた夜喰鳥を称えるためだと言われているのです。