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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)

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体が痛い…腕が重い…。僕はそのことで自分がまた意識を取り戻したのを知り、薄目を開けた。

「ああ!起きたのね!」

「お兄ちゃん!」

目の前には、泣いている母さんと、元気に僕の体にのしかかる春喜が居た。ちょっとだけ春喜が手を乗せているおなかが苦しい。でも…。

「春喜…?お前、病院に居るんじゃ…」

「同じ病院よ。まだ入院中だから」

母さんが目元の涙を拭って、嬉しそうにそう言った。僕が体を起こそうとすると、痛みは少しあったけど、歩くことも簡単に出来そうなくらいだった。

「僕、治ったんだよお兄ちゃん!だからお兄ちゃんも早く治って!」

春喜は嬉しそうにそう叫んだ。


僕は一人、考えていた。



そうか。僕が自分の力で船を漕いでまで、誘惑してくる者たちを遠ざけて、地獄へ渡ろうとしたから…。



「お兄ちゃん、痛いの?大丈夫?」


僕は泣いていた。良かった。これでみんなが本当に、元に戻ったんだ。


「痛くない、痛くないよ…嬉しいんだ…お前が助かったから…」

「何を言ってるんだ。お前だって、一カ月も意識不明だったんだぞ」

気が付くと僕の隣には父さんも居て、そう言った。

「一カ月だって…?」

「そうだ。医者も首をひねっていたけど、お前がなかなか目を覚まさないのは、傷のせいではないだろうと言ってた」

「本当に心配したのよ!ああ良かった!春喜、お兄ちゃんはもう大丈夫よ!」

「良かったお兄ちゃん!」







僕が退院する前に、春喜は無事に家に帰り、自分の退院の日、母さんに迎えに来てもらって、僕は家に帰った。


世界が元に戻った時、僕の年齢も元の18歳だった。つまり、春喜が居なくなる前に戻ったということだ。

「久しぶりに、コンビニ行ってくるよ」と言って家を出る。




何を買おうかな、とりあえずポテトチップスの新しいのが出ていないか見るか。そう考えながら、僕は街を見渡す。


今はちょうど春休みの最中で、つかの間に花たちが咲き溢れて空気は暖かく、自動車の排気ガスの匂いを、僕は何年かぶりに嗅いだ。アスファルトの敷かれた歩道の歩き心地は、さほど良くも悪くもない。


元通りだった。僕がずっと帰りたかった世界が、目の前にある。



涙が滲んでくるのを堪えてコンビニに入店すると、「いらっしゃいませー」と、高校生くらいの女性店員の声が迎えてくれた。ああ、日常。


僕はポテトチップスと、炭酸飲料を三本ほど持ってレジに向かおうとした。


でも、僕の足はレジの手前で止まり、僕はその場に立ち尽くした。


「あの…お客様、どうぞー…?」


目の前には、理子さんが居た。彼女はどうやら僕のことを忘れているらしかったけど、間違いなくそれは、高校生くらいの理子さんだった。


ああ、どうしよう。僕は心臓が痛いほど鳴って足元も覚束ないまま、レジへと進む。


淡々と会計が進み、僕は思い出していた。


神に向かって「僕の命と引き換えにこの世を戻してください」と願おうと決めた時、あの世界で彼女を置き去りにしてしまうことを後悔し、自分の気持ちを諦めたことを。


でも、今は彼女が目の前に居る。まったく知らない他人に戻ってしまったけど、僕はそれでも、また理子さんに会えた。


「五百円お預かりしましたので、六円お返しいたします。ありがとうございました」


そう言って頭を下げた彼女に、僕も「ありがとうございました」と言って、ちょっと会釈をしてコンビニを出た。




「さーて…どうしよう!?」


英雄でもなんでもない僕は、新たな試練を前に、途方に暮れた。






End.