僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)
次の朝、僕たちは同じ食卓で朝食を取っていた。ゆるやかに、もどかしく時間は流れ、愛の満ちた部屋は暖かかった。ダイニングには、彼女が作った美味しそうな朝食が並んでいる。
そこへ、突然僕が胸元に下げていた「子の石」がひときわ強く光り出した。彼女は慌てふためくような顔を一瞬見せたけど、僕は立ち上がる。
「見送りに…」
「戸口まででいいよ。必ず戻る」
僕は、精一杯不安そうな顔をした彼女を一瞬抱き締め、兵舎へと走った。でもその途中、道の向こうからロジャーが現れて、僕を見つけて叫ぶ。
「馬車に乗れ!こっちだ!」
煉瓦道を走り抜けてロジャーについていき、目の前の路地を曲がると、ちょうど走っていた馬車に追いついた。
街の人たちは兵士たちの乗った馬車を慌てて避けてから、「ご無事で!」と叫んだり、「頼んだぜ!」と励ましてくれたりした。ロジャーと僕は急いで馬車の荷台を掴んで、中に乗り込む。
「どういうこと!?僕を置いて行くつもりだったの!?」
僕がロジャーに聞こうとすると、馬を操る御者の隣で兵長が振り返って叫んだ。
「大群だ!大群が恐ろしい速さで迫ってる!お前を待っている暇がなかった!」
僕はぞっとして、それから下腹あたりが震えだすのを感じた。でも、そんなことは言ってられない。僕が諦めれば、全員が死ぬかもしれないんだ。
僕は馬車の上で、防具だけを身に着けた。それはアイモが持って来て、僕に渡してくれた。
戦場が目の前に迫っているのを、地響きが足元まで伝わっていることで感じる。
街では人々が避難を始めているらしい。監視者のギフトを持った者がモンスターの大群を捉えたのは、ついさっきだ。
門を開く前、兵長は全員に言い渡した。
「死ぬ気で闘え!我々軍人は人々を護る者だ!私は死んでもお前たちのことは忘れない!」
門を開くと、隙間から一気に舞い上がった砂埃が噴き出し、すぐそこに居たモンスターが鼻先で門をこじ開けようとした。
僕は「消えろ」と念じ、右手をかざした。
消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。何回この言葉を繰り返したのか。もう分からない。
僕は全身が傷だらけで、立っていることさえ不可能に思えてくる苦痛を背負っていた。それでも僕が倒れるわけにはいかなかった。
モンスターは消しても消しても、水が湧くように次々現れた。僕の右手で間に合わない分をロジャーが、アイモが、ジョンが葬る。それで足りない分を銃撃部隊が仕留める。
それなのに、もうこれ以上は無理だと思うような数が攻め入り続けていた。
僕たちはとにかく街からモンスターを引き離すため、少しずつ先頭の僕から、大群の中をかき分けて戦場を遠くへ移した。
僕は眠らずに闇の中でも闘いを続けることが出来た。三班のアルベリッヒは、光を灯せる能力を持っている。彼は兵長の命令で、ずっと僕の後についてきて、戦場を照らし続けてくれていた。
「アルベリッヒ!伏せて!」
巨大な亀のようなモンスターが素早く走り寄って来て、腹の中から石の塊のようなものをいくつも吐き出す。
それを消している間にも、巨大な亀は恐ろしい速さでこちらに迫る。地面が揺れ、僕たちは一瞬足を取られそうになった。
「待ちなドンガメ!そんな速さで俺に勝てると思うなよ!」
脇から出てきたロジャーがそう叫んで、亀をあっという間に消し炭にした。
「ありがとう、ロジャー」
「そうも言ってられないぜ、まだまだお待ちかねだ」
彼が顎をしゃくった先には、大空を滑空してこちらへ突っ込んで来る龍が見えた。
その体に生えたうろこの最後の一枚まで、余すことなく僕は消し去った。
「やるねえ大将!でも向こうもやる気だ!」
「アルベリッヒ!ついてきて!」
ロジャーは僕の前に飛び出し、僕はその後から駆け出して、二人で背中を分け合い、位置につく。僕たちの傍らには、アルベリッヒが光る両手を差し上げて辺り一帯を照らしてくれていた。
モンスター達は僕ら三人を囲い込んで、満足そうに鼻息を鳴らす。
「いくぞ!ぶっ放せ!」
作品名:僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結) 作家名:桐生甘太郎