Y.M.&OD in Vatican
そして2022年12月某日、バチカン・クリスマスコンサートが開かれた。さまざまな国から来た聖歌隊、オペラ歌手、ジャズバンド、ポップ歌手が参加し、ローマ教皇をはじめとしたカトリック教会の聖職者たちや一般観客の前で、自分たちの信仰に関する歌やクリスマスキャロルを披露することになっていた。
また、このコンサートは、会場に行くことが難しいオーディエンスに配慮して映像が配信されることになっていたので、多くの人々がPCやスマートフォン経由で素晴らしいパフォーマンスを鑑賞できた。
さて、イェーツ・マーロウ&オドネルが登場したのは、コンサートの中盤だった。この年のカナダの音楽シーンの「顔」となったミリオンダラー・バンドがステージに登場すると、オーディエンスは黄色い歓声の代わりに盛大な拍手で迎えた。
「So this is Christmas…」
フィルが歌い始めると、女性オーディエンスの中には口を覆って喜びの表情を浮かべたり、頬に手を当てて照れるように目を閉じる人が何人か居た。
途中で高音で歌うパートになると、ローマの児童合唱団の清らかなコーラスが入り、会場がちょっとした「地上の楽園」に変わった。伝説的なロックミュージシャンの楽曲でも、フィルが歌うとY.M.&ODの楽曲に聞こえるのは、彼に与えられた賜物の一部なのかもしれない。バチカンの聖職者たちも、満足そうな顔で彼らのパフォーマンスを見ていた。
平和を熱く訴える歌詞をもって1曲目が終了すると、会場の外まで聞こえそうな惜しみない拍手が送られた。
「ありがとうございます。次の曲は、今は神のもとに居る僕の親友の遺作で、恐れ多くも教皇様の熱いご希望により歌わせていただくことになったナンバーです。聞いてください。『FOUR SEASONS』」
ゴスペルソングを思わせる心地良いメロディー、フィルの温かい歌声、女性コーラスに加え、タイトルのとおり「FOUR SEASONS」(春夏秋冬)を通して信仰、希望、愛をつづった歌詞は、クリスマスという時期もあって、この1年を振り返るのにピッタリに感じられた。ローマ教皇は、自身を魅了した曲を全身で浴びるように聞き入っていた。
「僕らは愛し 愛されるために生きる」という、ある面で福音にもつながるフレーズをもって歌い終えると、フィルは天を見上げ、口角をわずかに動かした。その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
(ティム、僕たちは君の作った歌を生で教皇様にお聞かせしたよ。きっと君にも聞こえていたと思う。いや、君も一緒にパフォーマンスに参加してたのかもしれないね。…教皇様と僕たちをつないでくれて、ありがとう)
完全なクリスマス聖歌ではないにせよ、歌詞、メロディー、歌声と何から何まで美しい歌を聞いた人全てが、心の底から拍手を送った。
なお、このコンサートへの出演がきっかけなのか、カナダ国外のPEARLが次第に増えていくことになるのを、フィルたちはまだ知らなかった。
作品名:Y.M.&OD in Vatican 作家名:藍城 舞美