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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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Y.M.&OD in Vatican

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 「フィル、ヒューゴ、ジミー、いい知らせだ!」

 2022年10月某日、イェーツ・マーロウ&オドネルのプロデューサーを務めるマシュー・シーマンが、巻かれた1枚の紙を手に、フィルたちのもとに走ってきた。
「いい知らせ?どんなのですか」
 フィルが尋ねると、シーマン氏は3人の前で紙を広げた。
「すごいぞ。12月にバチカンで開かれるクリスマスコンサートに、イェーツ・マーロウ&オドネルが招待されたんだ!」
 彼の言葉を聞いて、フィル、ヒューゴ、ジミーは驚きのあまり一斉に立ち上がった。
「えっ、それは観客としてですか」
「いや、出演者としてだよ!」
 シーマン氏がジミーの問いに答えると、その紙をテーブルの上に置いた。そこに居る全員が、その紙に目を注いだ。

 彼らは文章をざっと読むと、目を大きく見開いた。
「これは…!」
 書かれていた内容を大まかに言うと、ローマ教皇ご本人がイェーツ・マーロウ&オドネルの楽曲を聞いて非常に感銘を受けたので、彼らには12月に開かれるバチカン・クリスマスコンサートにぜひ出演してもらいたいということだった。
「これって、教皇様からのご指名と言っていいんだよね」
「このオファー、信徒として蹴るわけにはいかないな」
 ローマ・カトリック信徒であるフィルとジミーが、気持ちを高ぶらせながら話していると、ヒューゴが遠慮がちに聞いてきた。
「なあ、俺はプロテスタントだが、出演OKなのか…?」
「ヒューゴも僕らと同じ神様を信じてるんだろう?」
「まあ、確かに信じてるが」
「それなら何も問題ないよ」
「自分もフィルと意見は同じだ」
 同じキリスト教徒である以上、他宗派の信徒を祭典から退けないのがローマ・カトリックのスタンスと言われており、フィルやジミーもそれに従っている。3人のやりとりを聞いていたシーマン氏が、大きくうなずいた。
「よし、快諾だな」
 フィル、ヒューゴ、ジミーは親指を立てた。

 フィルがあらためて書面を見ると、ローマ教皇が感銘を受けた曲のタイトルが「FOUR SEASONS」と書かれていた。PEARL(イェーツ・マーロウ&オドネルのファンの呼称)の間で「アンセム(聖歌)」と呼ばれる人気ナンバーだ。彼の頭の中に今は亡きティムの姿が浮かび、全身が震えた。
(教皇様にまで認められる曲を残したなんて、ティム、君ってやつは…)
 ちなみにティムはローマ・カトリックではなく、ルーテル教会というプロテスタントの一派の信徒である。その彼の書く歌詞の大半が「愛」をモチーフとしており、「FOUR SEASONS」はそれを最大限に表したナンバーなのだ。しかもこの曲は単純なラブソングではなく、彼自身の信仰と希望も感じさせる歌詞なので、ローマ教皇の琴線に触れたのだろう。

 イェーツ・マーロウ&オドネルがバチカン・クリスマスコンサートで歌う曲は短時間で決まった。一つは、ティムが敬愛するジョン・レノンのクリスマスソング「HAPPY CHRISTMAS(War Is Over)」。そしてもう一つは、ローマ教皇のお墨付きを得たナンバー「FOUR SEASONS」であった。
作品名:Y.M.&OD in Vatican 作家名:藍城 舞美