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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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Episode.5 飛び降りた先








僕は自分が住処としていた廃ビルの屋上で、フェンスに後ろ手に寄りかかって、ぼーっと空を見ていた。夜明けの空だった。綺麗だな。そう思ったけど、そう思った人間はもしかしたら、もう僕しか居ないのかもしれない。ふと、僕はそこで自分が中学生だった頃のことを思い出した。


中学の時、僕は世界を侮りながらも、何かに頼りたくて仕方なかった。そりゃそうだ。あの頃は、すべてすべてが、「初めて対峙するもの」だった。それを乗り越えなきゃ、毎日暮らしていけない。そしてある朝、こうやって、ここじゃないけど他のビルに忍び込んで、フェンスの向こう側を憧れのように眺めていた。

「世界が滅亡すればいいのに」。その時僕はそう思っていたけど、家で眠っている春喜のことを思い出したんだ。それで、「僕が死んだら、春喜は悲しんで、その一生に僕は大きな傷を与えてしまうだろう」と身を翻し、屋上の扉を開けて階段を降りて行った。



でも、あの時と今とでは、何もかもが違い過ぎる。世界中から、おそらく人っ子一人居なくなった。きっとそうだと思う。ここから聴いていても、聴こえてくるのは鳥の声だけで、人々が歩き回り出す朝、うっすらと聴こえてくるはずのざわめきは無い。それに、もう春喜も居ない。



もしかしたら、僕があんなふうに望んだからかもしれない。そんなはずはないけど、そう思いたくもなってくる。現実になってしまったら。



僕は、自分の手のひらを見た。うっすらと静脈が浮き、そこには命があった。それから、もう一度、赤く赤く燃え盛って地上に恵みをもたらす太陽を仰ぎ見た。そして僕に、「危険」という恐怖が襲い来る。心臓が足を踏み出すことを拒否している。手がどうしてもフェンスを放してくれない。


でも、もしかしたら、あの世に行けば春喜にも、母さんにも会えるかもしれない。




僕は静かに、足元のコンクリートの端を蹴った。