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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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僕は交番からの帰り、暗澹たる思いでなんとか自転車を押して、誰も居ない商店街を歩いていた。帰る途中でいろいろ考えた。もしかしたら、もう無線を使うための中継基地が死んでしまっているのかもしれない。こんなに人が居ないんだ。そんなところの維持なんか出来ないんだろう。それか、もしくは本当に、僕以外の人間がもう居ないのかもしれない。


僕は下を向いてそんなことを考え、泣きそうになるのを堪えていたけど、不意に頭の先が真っ暗になったように思って、ぱっと顔を上げた。すると、商店街のアーケードの出口は、真っ黒になっていた。


僕はまた起こった怪異に、足が竦む。目の前にあるシャッターがすべて降りた商店街は、出口が真っ黒に塗りつぶされ、先が見えない。


…戻らないと。振り返って、逃げるんだ!そう思うのに、振り返った瞬間に闇が自分を覆い尽くすような気がして、僕は体を翻すことも出来なかった。すると、闇の中にぽうっと青い光が灯る。

「ひっ…」

思わず喉に息を詰まらせ、僕はそんな声を上げた。そのうちにだんだん青い光は人の形を象り、真っ黒く塗りつぶされた壁に貼り付けられたように見えた。でも、僕はその人型をした光が一体誰の形なのか、もう分かっていた。

それは僕よりずっと背が低い、春喜の形をしていた。僕がそれを認めると、真っ黒い闇がずず、ずず、とこちらに伸びてきた。

「わあっ!」

僕は思わず知らず自転車を捨てて後ろへ逃げ出した。でも、後ろも真っ暗闇だった。さっきまで広がっていた商店街も、その外にあった世界も、何もかもが黒に変わっていた。目の前の信じがたい状況に、僕は即座に混乱した。

なんだよこれは!どうしてこんなことに!?

僕は触るのも恐ろしかった黒い闇に近寄って、恐る恐る手をつける。それは凍っているように冷たく、コンクリートとも石壁とも、鉄とも違う、異様な感触がした。僕は怖かったけど、他にやることがないので壁を叩く。壁はびくともしない。また別の場所を叩いてみる。そこも壊れることはない。

それから僕はそこらじゅうの黒い壁を叩いて回って、なんとか出口を掴むために壁を壊そうとしていた。そして時折後ろを見ると、春喜の形をした青い光がじっとこちらを向いているのがわかって、怖くてまた目を逸らした。

どんなに叩いても、蹴っても、黒い空間は破けも壊れもせず、ずっと僕たちを包んだままで、僕は焦りやら恐怖なんて言葉では測れないほどの不安の爆発から、ただ発狂したように「出してくれ!出してくれ!」と叫ぶしかなかった。それでも状況は変わらない。春喜の青い影はじっと僕を見つめていて、ゆらりとも動かなかった。

僕はあっという間に追い詰められ、渾身の力で壁を叩き続けながら、次のように叫んだ。


「出してくれ!お願いだ!…春喜!春喜!助けてくれ!」




すると、壁を叩こうと振り下ろした僕の両手はそこにあったはずの壁を素通りし、体が急に前につんのめって、僕はその場に転んでしまった。額に何かがガンとぶつかる。

「痛っ!」

僕は痛みにつぶっていた目を開け、目の前を慌てて確認する。そこには、「マエダ婦人服」と書いてある、商店街のシャッターがあった。


「戻ってきた…?」


その時、商店街のアーケードの中を、大きな声が反響していった。でも、叫んでるわけじゃない。まるでそれは天から降り注いでいる神の声のように、大きく大きく響いた。



「お兄ちゃんだけが連れて行けない。どうしたらいいの」



それは春喜の、涙声だった。


僕はそれから、もうよく覚えていないくらいにまだ混乱を続けたまま、「小早川会計事務所」に戻り、ソファに寝転び毛布に包まって、ずっと考えていた。でも、どんなに考えても、あの「真っ黒い空間」についての答えなんか分からなかった。


そのまままんじりともせず夜明けを迎え、僕はふと気づくと、廃ビルの屋上で、フェンスの外側に立っていた。