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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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振り向くと、彼女は落ち着いてこちらを見つめ、「わたくしどものところにおりますから。お世話をしておりました。今、お連れしてまいります」と言った。彼女は廊下の奥へと消えていき、すぐにタカシを抱いて僕たちのところへ戻って来てくれた。


そして、その女の人がタカシを抱いてこちらに近寄ってきた時、僕は驚いた。


綺麗な人だな。びっくりするほど。こんな人がやっぱり居るのか。そう思って僕は、思わずその瞬間に、彼女を僕の目に焼きつけようとしてしまった。


「絵のように美しい」という言葉があるけど、彼女の、印象的に細く弧を描く眉と、みずみずしく輝く大きな両目、その目をぴっちり覆う長い睫毛と、薔薇色の頬…それから、つまんだらなくなってしまいそうな小さくてかわいい鼻、笑顔の形に持ち上がった紅色の唇は、「絵」なんてものじゃなかった。

エプロンドレスに包まれた彼女の細い細い腰から、控えめな胸元の膨らみまでの流れるような曲線も、ドレスの胸元から覗く鎖骨の儚さも、彼女を描きたい画家の方から現れそうな綺麗さだった。


そう思って驚いている間も、彼女は僕に近づいて来る。僕は恥ずかしくて、ちょっとうつむきがちになってしまった。

「あ、ありがとうございます…」

あんまり綺麗な人だから、目の前でまじまじと見つめることなんて出来なかった。彼女がタカシをこちらに渡してくれるのを抱き止めてお礼を言うと、「お礼なんて、よろしいんです。それでは、失礼致します」と彼女は言って、足早にその場を去ってしまった。


綺麗な人だったな。本当にびっくりした。


僕がそう思いながら彼女が駆けて行った廊下の奥を見つめていると、オズワルドさんが「コホン!」と咳払いをしたので、僕は慌ててオズワルドさんに向き直った。

「参りましょう。ハルキ様もきっとお待ちかねです」

「…はい」

オズワルドさんはそれ以上何も言わなかったけど、もしかしたら僕が今何を考えていたのかなんて、わかっているかもしれない。それを思うと、ものすごく恥ずかしかった。

それをごまかすためってわけじゃないけど、僕はちょっと、腕の中のタカシの重みと、ふわふわとした毛が首元に当たるこそばゆさを、久しぶりに噛みしめていた。

「お前、僕のこと忘れてなかったんだな?」とタカシを覗き込んで言ってみると、タカシは「わん!わん!」と二度吠えた。


議事堂を出る時にもう一度建物の中を振り返ったけど、さっきの女の人はもうどこにも見えなかった。