少年カノン-春風の二重奏-
夕日が染みる、春の午後。
柔らかなオレンジの光と。
奏でる二重奏。
トランペットとトロンボーン。
ずっと。
ずっとこうして二人でいられたら。
「すっごい上手だね〜。」
俺たち二人のアンサンブルが終わると、近くにいて聞いていた女子たちがわらわらと集まってくる。4,5人といったところか。
同じ学年の人はどうやらいない。全員吹奏楽部の先輩らしい。
「ありがとうございます。」
やんわりとした口調を心がけて例を言う。
気持ちよく吹いていたのに邪魔をしないで欲しかったが、これからここでやっていくには少しの我慢も必要だ。
何しろ部員の9割が女性なのだから。
「ねえ、君名前なんだったけ?」
俺たち二人のところに集まってきた中のリーダー格のような先輩が、尋ねてくる。一応入部してすぐに自己紹介はしたはずなのだが。
「紅林真澄といいます。」
男子生徒がこの部に入ることは結構珍しいはずで、軽く位は覚えていてもらってもよさそうなのに・・・。
・・・ああ、この人は最初のミーティングにはいなかったな。こんな目立つ先輩、いたら覚えているはずだ。
神柳杏子先輩。
見るからにいまどきの女子高生そのままだ。染めた茶髪にしっかりとセットされたであろうウェーブのかかった髪、けして派手ではないのだが、周りの学生達からすれば異様なため、目立ってしまうしっかりメイク。さらにスタイルがよく、モデルでもいけるんじゃないか?ってくらいだ。よくいる、綺麗な人だ。
挙句の果てに、苗字が?カミヤナギ?という大層なお名前。一度自己紹介されればしばらく顔を見ずとも思い出せてしまうインパクト。いや、俺も人のことは言えたもんじゃないけど。
「クレ・・バヤシ・・・?」
珍しい苗字だから、彼女は聞き間違いじゃないか?という不安を抱いたよう。
「ええ、クレバヤシ。?くれない?に?はやし?って書くんです。」
正直、この説明も今回で何度目になるのやら。新学期とかが始まるたびにやっているから、慣れてはいる、けど面倒だ。
「へえーめずらしい苗字なんだね〜で、そっちの君は?」
うんうん頷き、納得する先輩。周りの女子たちも同じことを思っていたらしく、へえなどと口にしたりしている。
それから間髪入れずに、彼女は俺の隣にいる一見するとクールな印象を持つ少年に同じように名前を聞く。
隣のヤツは、ぼそりと、無表情のまま呟くように答えた。
「金崎・・暁です。」
よろしく、とは言葉にはしなかったたが、ぺこりと軽く会釈。
今日、二人してこの美郷高校の吹奏楽部へ本入部したのだ。今日はその初めての練習日。
ちなみに中学でも俺とサトルは一緒の部活だった。
自己紹介セカンドをした後、俺たちを待っていたのは彼女たちからの質問攻め。
何組?とかから始まり、吹奏楽部にいる理由やら、友達なの?とか挙句の果てには彼女いるの?とか。
一種の社交辞令というのは理解している。
理解はしているけど、感情はついてこない。
面倒だな。
当たり障りのない回答を探すのも、結構気を使う。
しかし、うるさいなこの人達。一応練習中なんだけどな。楽器の音より煩く出来るってある意味感心する。
「そこ、なにしてるんですか?!」
そんな内心気だるくなっていたところに、天の助けか。
凛とした声が音楽室に響く。楽器の音に負けない、通った声。
俺たちのところに集まり輪になっていた女子たちを諌める少女。・・・確か彼女は。
「すいません、白幡先輩。」
俺は輪の隙間から、彼女に向かって謝罪する。悪いのは集まってきた彼女たちなのだけれど・・・何故かあの人にそういわれると悪いことをしてしまった気持ちにさせられる。
彼女は確か、白幡梓先輩。きりっとしたいつも背を真っ直ぐにして立っている態度のメガネと真っ直ぐすぎるくらいストレートの長い髪が特徴の人。髪はかなり長く、腰まであるんじゃないだろうか。メガネをかけていても解かる、綺麗な顔をした人だと。スカートはその辺の女子高生よりは長いが、スラリと伸びた足にニーソックスといういでたちをしているためやはり、地味というよりは目立つ人だ。いかにも、委員長な風貌。
「いいえ、紅林君に金崎君は悪くない。問題は集まってきているあなた方です。」
その、あなた方は一斉に白幡先輩に眼を向ける。集団に見つめられるのは辛いんじゃ・・と思うが、先輩は至ってそのまま続けた。
「今は練習時間。各自戻りなさい。」
最低限の注意だけを言い放ち、すぐさま踵を返して廊下へと出て行く。手には日誌のようなものを抱えていた。多分、職員室かその辺りに行くのだろう。
スタスタと早足で歩いていくその後姿は、男の俺でもカッコイイなんて思ってしまうほどだった。
注意された彼女たちも、素直に、はいすいませんと、言った。
が、しかし、俺が感心できる時間はすぐさま目の前の方々に打ち砕かれる。
「あーなにアイツかんじわっるー。」
申し訳なさそうにしていた態度から一変。不機嫌を露にする。
な、なにその切り替えの早さ。というか全く悪いと思っていないなこの人達。
「ホントだよねーウザいったらない。」
「つかいかにも優等生でさ、勉強だけ全てです!って感じじゃん?」
「あーそうそう、絶対カレシとか出来ないってのな。」
「ホントホントー」
白幡先輩がいなくなると解かるや否や、陰口祭りが始まった。
とりあえず一番言いまくっているのは神柳先輩。確かにこの人とあの人では仲良くなんて絶対にできないだろう。理解しあうこともなさそうだ。
づづくように、取り囲む先輩たちが、神柳先輩の話に同意し、頷いたり共感したりしている。
表面上は、ここ一帯が味方グループなんだろう。が、俺にはどうも胡散臭く思える。
さっきの態度が物語る。苦笑いしてたくせに、アレは演技か。
だんだん不機嫌になっていく俺の心だが、絶対に顔には出すまいととりあえず、苦笑いを浮かべておく。
そんな俺の様子に気づいたのか、隣にいて静かにしていたサトルがツンツンと俺の二の腕をつつき、同じような苦笑を浮かべて見せられた。
多分、同じことを思ったのだろう。
「ま、というわけであのムカツク女のことは気にしなくていいからね、また仲良くおしゃべりしましょ?」
そう、かわいらしくこの人は笑って見せ、バイバイと手を振りながら廊下の方へ歩いていく。
どうやら気が俺たちから白幡先輩に移ったらしく、神柳先輩のグループの人達は俺たちから離れていて、ムカツクからどっかでサボる?なんて会話をしていた。
・・・真面目に練習しろよお前ら、俺たちのこと凄いって言うんなら。
喉まで出かけた言葉をどうにか鎮める。
無言のまま俺たちは彼女たちがいなくなるのをぽかんと見ていた。
本当、女は怖い。中学より穏やかかなーなんて淡い期待を抱いていたけど、表面上穏やかであるがゆえ前以上に怖い。
隣では、やっと落ち着いたとため息が聞こえる。
ゆるりと、サトルの表情がさっきまでの仏頂面からいつもの緊張感のない顔へと戻っていく。
そして、ぼそりと呟く。
「女って怖いなー」
俺は無言で頷いた。
「マッスミぃー」
部活も終わり、駐輪場へ向かう途中がばりとサトルが抱きついてくる。
「うあっちょっお前なんだいきなり・・・!」
柔らかなオレンジの光と。
奏でる二重奏。
トランペットとトロンボーン。
ずっと。
ずっとこうして二人でいられたら。
「すっごい上手だね〜。」
俺たち二人のアンサンブルが終わると、近くにいて聞いていた女子たちがわらわらと集まってくる。4,5人といったところか。
同じ学年の人はどうやらいない。全員吹奏楽部の先輩らしい。
「ありがとうございます。」
やんわりとした口調を心がけて例を言う。
気持ちよく吹いていたのに邪魔をしないで欲しかったが、これからここでやっていくには少しの我慢も必要だ。
何しろ部員の9割が女性なのだから。
「ねえ、君名前なんだったけ?」
俺たち二人のところに集まってきた中のリーダー格のような先輩が、尋ねてくる。一応入部してすぐに自己紹介はしたはずなのだが。
「紅林真澄といいます。」
男子生徒がこの部に入ることは結構珍しいはずで、軽く位は覚えていてもらってもよさそうなのに・・・。
・・・ああ、この人は最初のミーティングにはいなかったな。こんな目立つ先輩、いたら覚えているはずだ。
神柳杏子先輩。
見るからにいまどきの女子高生そのままだ。染めた茶髪にしっかりとセットされたであろうウェーブのかかった髪、けして派手ではないのだが、周りの学生達からすれば異様なため、目立ってしまうしっかりメイク。さらにスタイルがよく、モデルでもいけるんじゃないか?ってくらいだ。よくいる、綺麗な人だ。
挙句の果てに、苗字が?カミヤナギ?という大層なお名前。一度自己紹介されればしばらく顔を見ずとも思い出せてしまうインパクト。いや、俺も人のことは言えたもんじゃないけど。
「クレ・・バヤシ・・・?」
珍しい苗字だから、彼女は聞き間違いじゃないか?という不安を抱いたよう。
「ええ、クレバヤシ。?くれない?に?はやし?って書くんです。」
正直、この説明も今回で何度目になるのやら。新学期とかが始まるたびにやっているから、慣れてはいる、けど面倒だ。
「へえーめずらしい苗字なんだね〜で、そっちの君は?」
うんうん頷き、納得する先輩。周りの女子たちも同じことを思っていたらしく、へえなどと口にしたりしている。
それから間髪入れずに、彼女は俺の隣にいる一見するとクールな印象を持つ少年に同じように名前を聞く。
隣のヤツは、ぼそりと、無表情のまま呟くように答えた。
「金崎・・暁です。」
よろしく、とは言葉にはしなかったたが、ぺこりと軽く会釈。
今日、二人してこの美郷高校の吹奏楽部へ本入部したのだ。今日はその初めての練習日。
ちなみに中学でも俺とサトルは一緒の部活だった。
自己紹介セカンドをした後、俺たちを待っていたのは彼女たちからの質問攻め。
何組?とかから始まり、吹奏楽部にいる理由やら、友達なの?とか挙句の果てには彼女いるの?とか。
一種の社交辞令というのは理解している。
理解はしているけど、感情はついてこない。
面倒だな。
当たり障りのない回答を探すのも、結構気を使う。
しかし、うるさいなこの人達。一応練習中なんだけどな。楽器の音より煩く出来るってある意味感心する。
「そこ、なにしてるんですか?!」
そんな内心気だるくなっていたところに、天の助けか。
凛とした声が音楽室に響く。楽器の音に負けない、通った声。
俺たちのところに集まり輪になっていた女子たちを諌める少女。・・・確か彼女は。
「すいません、白幡先輩。」
俺は輪の隙間から、彼女に向かって謝罪する。悪いのは集まってきた彼女たちなのだけれど・・・何故かあの人にそういわれると悪いことをしてしまった気持ちにさせられる。
彼女は確か、白幡梓先輩。きりっとしたいつも背を真っ直ぐにして立っている態度のメガネと真っ直ぐすぎるくらいストレートの長い髪が特徴の人。髪はかなり長く、腰まであるんじゃないだろうか。メガネをかけていても解かる、綺麗な顔をした人だと。スカートはその辺の女子高生よりは長いが、スラリと伸びた足にニーソックスといういでたちをしているためやはり、地味というよりは目立つ人だ。いかにも、委員長な風貌。
「いいえ、紅林君に金崎君は悪くない。問題は集まってきているあなた方です。」
その、あなた方は一斉に白幡先輩に眼を向ける。集団に見つめられるのは辛いんじゃ・・と思うが、先輩は至ってそのまま続けた。
「今は練習時間。各自戻りなさい。」
最低限の注意だけを言い放ち、すぐさま踵を返して廊下へと出て行く。手には日誌のようなものを抱えていた。多分、職員室かその辺りに行くのだろう。
スタスタと早足で歩いていくその後姿は、男の俺でもカッコイイなんて思ってしまうほどだった。
注意された彼女たちも、素直に、はいすいませんと、言った。
が、しかし、俺が感心できる時間はすぐさま目の前の方々に打ち砕かれる。
「あーなにアイツかんじわっるー。」
申し訳なさそうにしていた態度から一変。不機嫌を露にする。
な、なにその切り替えの早さ。というか全く悪いと思っていないなこの人達。
「ホントだよねーウザいったらない。」
「つかいかにも優等生でさ、勉強だけ全てです!って感じじゃん?」
「あーそうそう、絶対カレシとか出来ないってのな。」
「ホントホントー」
白幡先輩がいなくなると解かるや否や、陰口祭りが始まった。
とりあえず一番言いまくっているのは神柳先輩。確かにこの人とあの人では仲良くなんて絶対にできないだろう。理解しあうこともなさそうだ。
づづくように、取り囲む先輩たちが、神柳先輩の話に同意し、頷いたり共感したりしている。
表面上は、ここ一帯が味方グループなんだろう。が、俺にはどうも胡散臭く思える。
さっきの態度が物語る。苦笑いしてたくせに、アレは演技か。
だんだん不機嫌になっていく俺の心だが、絶対に顔には出すまいととりあえず、苦笑いを浮かべておく。
そんな俺の様子に気づいたのか、隣にいて静かにしていたサトルがツンツンと俺の二の腕をつつき、同じような苦笑を浮かべて見せられた。
多分、同じことを思ったのだろう。
「ま、というわけであのムカツク女のことは気にしなくていいからね、また仲良くおしゃべりしましょ?」
そう、かわいらしくこの人は笑って見せ、バイバイと手を振りながら廊下の方へ歩いていく。
どうやら気が俺たちから白幡先輩に移ったらしく、神柳先輩のグループの人達は俺たちから離れていて、ムカツクからどっかでサボる?なんて会話をしていた。
・・・真面目に練習しろよお前ら、俺たちのこと凄いって言うんなら。
喉まで出かけた言葉をどうにか鎮める。
無言のまま俺たちは彼女たちがいなくなるのをぽかんと見ていた。
本当、女は怖い。中学より穏やかかなーなんて淡い期待を抱いていたけど、表面上穏やかであるがゆえ前以上に怖い。
隣では、やっと落ち着いたとため息が聞こえる。
ゆるりと、サトルの表情がさっきまでの仏頂面からいつもの緊張感のない顔へと戻っていく。
そして、ぼそりと呟く。
「女って怖いなー」
俺は無言で頷いた。
「マッスミぃー」
部活も終わり、駐輪場へ向かう途中がばりとサトルが抱きついてくる。
「うあっちょっお前なんだいきなり・・・!」
作品名:少年カノン-春風の二重奏- 作家名:キッカ