シチュー
ボクの万年筆が動きを止めた。走らせていたインクの筋が字の途中で止まってしまった。
それほどに キミの行動をボクの脳は思考しているのだ。
「どうしたの?」
ボクは 訊いた。
「にゃん」
「そっか。大丈夫だよ。万年筆も休憩ってさ」
そんなボクの台詞が終わらぬうちに キミの腕が ボクの首に温かさを感じさせた。
「にゃぁ?」
「うん、食べたかったよ。あったまろ」
「うふふ」とでも言っているかのように キミの掌がボクの頬を挟んだ。
しばらく振りのボクとキミ。
少しは成長できているかな? 変わらないままでいいんだよ。
でも、お互いが「いいね」と思う事はいっぱいになったね。
ふたりで選んだ…ほとんどキミが選んだボウル皿に湯気をあげているシチュー。
人参も玉ねぎも、あ、じゃが芋も入れたんだね。よい色合いにゴロンゴロン入ってる。
そして、上に飾られたブロッコリーの緑が とても綺麗だ。
「いいね」
またひとつ増えた気がした。
熱いシチュー食べられるかなぁ。猫舌でないはずだけど、キミの尖らせた唇がずっとふぅふぅしている。ま、まさかするのか?
「あーん」
キミのペースから抜け出せないボクは やっぱりキミが好きでたまらない。
シチューの具のようにまったりとろりんとキミの空気に包まれているようだ。
すっかり料理上手なシェフのように上機嫌なキミが作ってくれたシチュー。
ただそれだけなのに……。
― 了 ―