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八九三の女

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[青い春 part2]



初めこそ突き出した月見里君を恨んだが
矢張り、誰も挙手しない男子委員に立候補してくれた訳だし

人前が苦手な少女にとって
号令、学級会の司会等を月見里君が担当してくれるのは助かる
雑務、委員会への出席は自分担当と役割分担していると思えばいいのだ

「部田ー」

数分前にメッセージが届いたのを機に
携帯電話を操作する少女に月見里君が呼び掛ける

手にしたバスケットボールを右手、左手と交互にドリブルしながら誘う

「久し振りにやらなーい?」

「馬鹿か」
「部田、スカートだろうが」

制服姿の少女を考慮した小鳥遊君の言葉に
携帯電話を仕舞う、通学鞄をコート脇のベンチ椅子に置く

「大丈夫」

と、答えるとスカートの裾を捲った

「スパッツ、履いてる」

ヤル気満満の少女に
親指を立てる月見里君とは対照的に
口元を押さえ、その身を翻す小鳥遊君に少女が慌てて言う

「ごめん」

「いい!全然いい!」

大きく手を振り否定するも
なにが「いい!」のか、小鳥遊君本人にも分からなかった

「部田ー、送ってくー」

小一時間程、1on1した結果
日の暮れ始めた空を仰いだ月見里君が、言う

多分、裏街に入る頃には真っ暗になっている

「叔母が迎えに来てくれる」

ベンチ椅子に置いた通学鞄から取り出した
携帯画面のメッセージの遣り取り画面を見せながら、少女が答える

「マジでー」

入学式の日を境に
メッセージの遣り取りは二人だけの世界ではなくなり
姉を招待した、三人の世界になった

なんて楽園

確かに楽園なのだが
偶には叔母と二人だけの世界に旅立ちたいのだが
姉と叔母の女子旅が優先される日日

どうしようもない
異性は仲良しの同性には敵わない

置いてきぼりの自分は唯唯、寂しいが
叔母と姉が幸せで楽しいのなら喜んで涙を呑む所存だ

そうして我慢した結果
こうして神様はご褒美を用意してくれたじゃないか

然も叔母が迎えに来たとしても心配が二重になるだけだ
とてもじゃないが二人だけで帰す訳にはいかない

是が非でも、送って行く

浮き浮きする月見里君を余所に
小鳥遊君は携帯電話を操作する少女を見遣る

自分の心は未だ「あの人」に囚われたままだ

多分、部田は知らない
入学式の日、自分が「あの人」と対峙した事を知らない

自分も言わないし
「あの人」も言わないだろう

あの時は月見里君の展開を四股、激怒したが
今は百パー、親友の言葉を信じている

裏付けるのは、首筋に貼られた絆創膏だ
当然「キスマーク」だ

キスマークを許す相手なんだ
キスだって許せるし、それ以上の事だって許せるだろう

其処へ持って来て、あの質問だ
体育倉庫前で月見里君にした質問、あれは

「千~、お待たせ~」

途端、小鳥遊君の思考は停止する
三人が待つ、コート目指し駆け寄る叔母の明るい声を聞きながら
笑顔で出迎える月見里君に視線を向ける

幸せそうで何よりだ
皮肉なのか、世辞なのか自分でも分からない

唯、羨ましい

「どうした?夜道が怖いのか?」

揶揄う口調で少女に声を掛ける
突然の、見知らぬ男性の声に小鳥遊君は身構えた

「あの人」の声じゃない
「あの人」の声より高めで軽い印象の声だ

だが、月見里君には関係なかった

小鳥遊君の言う「あの人」だろうと
目の前に佇む男が誰だろうと関係なかった

唯、叔母と腕を組んで現れた事実が問題なのだ

真逆の事態に困惑する少女を余所に
笑顔を張り付けたまま、その場に固まる月見里君に
叔母は更なる爆弾を投下する

「あ、月見里君も小鳥遊君もお揃いだ~」

「皆で帰ろうか~」
「あ、紹介するね~、社員君だよ~」

「社員、君?」

辛うじて、そう返す月見里君に叔母はにこにこ顔で頷いた

「彼氏君だよ~」

作品名:八九三の女 作家名:七星瓢虫