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八九三の女

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[添い寝]



社長の部屋は
部屋数は1LDKだが、間取りが広い
寝室には何故かダブルサイズのベッドが余裕で収まっている

だが、問題なのは来客用の寝具がない事

少女は愈愈、覚悟を決めるが
スウェット姿の社長が枕と毛布を抱え「俺は、ここで寝るから」
と、カウチソファに寝転がる

成る程、居間のカウチソファは大人が横になり
眠れるほど大き目なので問題は簡単に解決したようだ

少女は社長に礼を言って寝室に向かう

ダブルベッドを譲ってもらっておいてなんなんだが
広過ぎるベッドは解放感より孤独感の方が強くなる

案の定、眠れない

寝室の格子柄の扉は両開きの引き戸だ
少女は居間から差し込む、筋状の光りを眺めながら思う

社長は起きているのか?

徐に起き上がり、静かに引き戸を滑らせる
足音を忍ばせ社長が横になるカウチソファに近付く

そっと背凭れに手を置き、身を乗り出すように覗き込む
彼は健やかな寝息を立てて寝ている

溜息を吐き、枕元に置いてある電灯のリモコンに手を伸ばす

この人は自分が逃げるとか、思わないのか?

まあ、逃げるといっても何処に逃げればいいのか分からない
それに叔母の事を思えば逃げる訳もない

第一印象というより
自分の中の金貸し屋の印象は、凄く非道なイメージだった

それなのに、晩御飯の肉じゃがをお代わりして
今は無防備全開で爆睡している社長を眺めて、少し可笑しくなる

一人で想像して、一人であたふたして馬鹿みたいだ
自分は「裏街」という言葉に毒されているのかも知れない

この人は

自分が叔母に甘えるように
叔母も自分に甘えている、と見抜いたんだ

見抜いた上で引き離したんだ

でも、寂しい
眠る時は一人でも起きる時はいつも隣に叔母がいた

其の温もりが此れから先、ないのかと思うと唯唯、寂しい

なにを思うのか
少女は社長を起こさないように気を付けながら、添い寝する

大き目のカウチソファとはいえ
横向き寝でも結構ぎりぎりで仰向け寝は出来ない
仕方なく、触れるか触れないかの位置まで身体を寄せる

途端、社長が寝返りを打つ
振り伸ばした腕が少女に触れた瞬間、勢い良く引き寄せられる
少女は心臓が止まるほど驚いたが、なんとか声は抑えた

抱き枕の如く、自分を抱き抱える社長に少女は息を潜める
おまけに緊張で身体が強張るが頭上では健やかな寝息が聞こえる

単調な、その寝息を聞いている間にも夜は更けてく
少女もいつの間にか眠りについた

作品名:八九三の女 作家名:七星瓢虫