八九三の女
[18禁]
最終的には枕を抱き抱え、うつ伏せ寝する事にした社長は
なんとなしに格子柄の扉を見遣る
既に叔母も少女も眠ったのだろうか
随分前に漏れていた明かりも話し声も消えている
ならば自分も諦めて寝るしかない、と思うも直ぐに思い直す
「諦めて」ってなんだ?
バラしたのは自分自身なのに
終わりにしたのは自分自身なのに
諦める以外、どうしろってんだ
眺める格子柄の扉
暗闇に慣れた瞳孔が音もなく開いていく引き戸を視認する
言葉もなく身体を起こす社長を余所に
寝室に侵入して来た少女はゆっくりと引き戸を閉めていく
予期せぬ行動に少なからず狼狽えるも
ダブルサイズのベッドの真ん中を独占していた社長は
ベッド脇に辿り着いた少女の為に場所を空けた
俯いたまま、少女は社長に背を向け横向き寝になる
社長はなにも言わずにいつものように、その背中を抱き寄せた
この匂い
この感触
毎朝毎朝、残される感覚だ
少女の黒緑色のボブヘアに顔を埋めると鼻先に絆創膏が触れた
キスマークを隠す為とはいえ、いい加減薄れた頃だろう
ついと指を掛け、絆創膏を剥がす
絆創膏は一気に剥がす方が痛みは少ない筈だ
小さく、少女が肩を竦めた気がしたが
暗闇の中では跡が残っているのか分からない
徐に指先でなぞってみる
晩飯の時、思い出し笑いをしていたのはどういう意味なのか
あの夜の事は少女の中では笑える出来事なのか、どうなのか
確かめてみたい
何処まで許されるのか
確かめてみたい
抱き抱える少女の気持ちを
取り合えず、キスマークは許容範囲内だと思いたい
絆創膏を剥がした跡を舌で愛撫する
熱く、湿った感触に少女は思わず唇を噛み締める
今でも考える
あの夜、社長が眠りに落ちなかったら
自分はどうなっていたんだろうか
あの後、社長が続きを実行していたら
自分はどうしていたんだろうか
社長の指が少女の項を掻き揚げ、顎を掴み上げる
自然と開いた唇に彼の唇が重なり熱い舌が口内に入ってきた
舌と舌が絡み合う音が頭の奥の方で反響する
五体は成す術もなく何処までも浮き上がるような感覚に
少女は思わず、社長の腕にしがみ付く
社長が少女の背中に腕を回し入れ
抱き上げると互いの胸が重なり、互いの鼓動が伝わってくる
怖い
怖いけどもどかしい程、胸が熱い
困惑する少女を余所に
唇から首筋へと愛撫を続ける社長の顔を手で押さえ付けるも
お構いなしに、その指にしゃぶり付かれる
「だめ」
瞬間、小指を甘噛みされ少女は仰け反る
敏感に反応する様子に社長も自制するのが難しい
パジャマの上着をたくし上げ
未だ、未熟な膨らみ加減の胸元に手の平を滑らせ
軽く押し上げた乳房の谷間に舌を這わせる
が、これ以上は少女の言う通り駄目だ
「キスマークでいい」
少女の耳元に顔を寄せ、囁く社長の呼吸は荒い
「それで終わりにする」
首筋に社長の唇が触れる
その熱さに、痛みに少女は堪え切れず声を上げた
ああ、社長は心から後悔する
こんな思いをするくらいなら大人しく寝てしまえば良かった
少女の身体を抱き締め、そのボブヘアに顔を埋める
そうして酒を呷って寝入ってくれた叔母に少なからず、感謝した