ショウゲキ
それから2日後、エミは3限の授業の後半ぐらいから妙なだるさを感じ、その日は4限まで持っていた授業を3限で切り上げて帰宅した。家に入った直後、何だか寒気もしてきた。彼女はパジャマに着替えてから体温を測ってみると、38.9℃もあった。間違いなく、冬になると必ずやってくるあの病気にかかったのである。
「あ~かかっちゃった~。明日、学校に連絡しなきゃ……」
そして翌日。エミが学校に連絡するべく起き上がると……。何と、高熱もだるさも、頭がぼーっとする感じも消えていたのだ。まるで、最初からその病気になどかかっていないかのように……。
(え…またすぐに治ってる……。あれにかかったら、1週間くらいは症状が続くのに……)
彼女は自分の体質に奇妙なものを感じた。それでも、その日は普通に登校した。
その1週間後、エミに悲劇が起こった。不運にも、帰宅途中で通り魔に後ろから背中を刺されたのだ。エミは重体で病院に運ばれた。彼女が病院に運ばれたと聞き、地元から両親が駆け付けた。彼らの愛娘は、集中治療室で眠っている。彼らは黙って娘の顔を見るしかなかった。
しかし2日後、エミの意識が戻った。両親は大喜びし、母親は娘を抱き締めた。驚くべきことは、それだけではなかった。かなりの輸血を必要とする大けがだったにもかかわらず、傷がきれいに消えていたのだ。もちろん、普通に立って歩くこともできた。これには、治療にあたった医者も
「信じられない。これは奇跡としか言いようがない」
と言うばかりだった。エミは、以前にも自分の身に起こった短期間での治癒のことを話そうとしたが、彼らの反応は話さなくてもわかっていた。
こうして、エミはあっさりと退院し、帰路に就いた。マンションの出入り口を通ると、何だか雰囲気がいつもと違っていた。とりあえず自室のある階までエレベーターで行くと、自分の隣の部屋で何やら人だかりができていた。
(えっ、隣の部屋で何が!?)
そう思ったエミは、1人に話しかけた。
「あの、何かあったんですか、この部屋で」
眼鏡をかけたおばさんが言った。
「あら、305号室のお嬢ちゃん。けがはもう大丈夫なの?」
「え、あ、はい、何とか……」
エミがそう答えると、今度は背の低い太ったおばさんが言った。
「あらそう。ところであなた、大変よ。この部屋に住んでるタサキ ショウさんが今日の朝方、亡くなったそうなのよ」
このとき、エミの受けた衝撃は中途半端ではなかった。眼鏡のおばさんはまた話し始めた。
「彼、ずっとこの部屋の中にいたのに、背中に刺し傷みたいな傷ができて、そのまま失血死しちゃったみたいよ。不思議だけど、かわいそうね」
エミは唇を震わせ、しばらく動けなかった。自室に戻ると、彼女はためていた涙をしばらく流した。
― ショウの右腕には、クリアな赤いビーズのブレスレットがあった……。