誰かをつなぐ糸
さて、帰り道でのこと。ジュンは、自分以外の人には見えない奇妙な糸の結ばれた先を確かめることにした。彼は糸に沿って、いや、糸に導かれてどんどん歩いていった。
やがて彼は、職場のある「湯島町」から、「りんどう町」に来ていた。その頃には、夕闇が迫りつつあった。彼はその町のことを全く知らないわけではないが、なぜか初めて来た気がした。白い糸の結ばれた先は、まだ見えなかった。
(いったい何と、いや誰と結ばれてるんだろう、この糸。でも、何で赤い糸じゃないんだろう…)
ジュンは、既に糸の伝説を信じていた。
りんどう町内の、彼の通ったことのない道を歩いたのち、今度は「狩野町(かのうちょう)」に入っていた。そこはあまり人通りが多くなく、午後も7時頃になると、男性でも1人で歩きたがらない地帯である。彼は、その街についてはよく知らなかった。彼は街灯を頼りに、白い糸の結ばれた先を探して、初めて歩く道を進んだ。
しばらくして、1軒の洋館が見えてきた。どういうわけか、重そうな金属製の門は開放されていた。その洋館の前庭には、濃紺のワンピースを着た16、7歳の1人の少女の姿があった。ジュンは、僅かに頬を赤らめた。
(もしかして、つながってるのはあの子かな…)
彼は大声で言った。
「ごめんくださ~い」
少女は答えた。
「はい、どうぞいらっしゃって!」
彼は、彼女の言葉に甘えてその洋館の門を通った。