誰かをつなぐ糸
― どこかのカフェで
「ところでトモミ、トモミは運命の赤い糸って信じる?私は信じるけど」
「もち!私の赤い糸、誰と結ばれているのかな?」
「きっとすてきな男性よ~キャハハ……」
ジュンは、女子高生のこんな会話を聞いていた。
(運命の赤い糸ねえ。…俺には随分と縁遠い話だ)
彼は収入、外見、頭脳、どれを取っても並という、あまりぱっとしない男性なのだ。そのうえ、彼は恋愛に無関心ですらあった。
3日後、ジュンが、同僚のマキコとランチを食べていたときのこと。彼は自分の右手小指の付け根に何かが結び付けてあるのを見た。よくよく見てみると、それは白い糸だった。
「何だこれ、糸付いてる」
すると、マキコが尋ねた。
「ん?どうしたの」
「いや、何だか分かんないけど、俺の小指に白い糸が付いてるんだよ」
ジュンが答えると、彼女に右手小指を見せた。
「いえ、糸も何も付いてないわよ」
(…?)
彼は反論した。
「いや、本当に付いてるんだって。もっと目を凝らして見てくれないかい」
マキコは彼の言うとおり、小指の先から付け根までじっくりと見てみた。しかし、それには何も見えない。
「本当に何も付いてないわよ。見間違いじゃない?」
彼は、これ以上言い張っても彼女の返事は変わらないと悟ったのか、
「そうか」
と一言、再びランチに手を付けた。
午後の仕事の間も、ジュンの右手小指にはあの白い糸が付いていた。彼はその糸がどうしても気になり、しばしばそこに目をやったり、それを引っ張ったりした。そんな彼のアクションを見て、隣で作業中の同僚が話しかけてきた。
「おいジュン、何引っ張ってんの?」
「いや、糸がさ…」
「えっ、糸?付いてないじゃん」
「いや、付いてるんだって…」
同僚はため息をつくと、
「おまえ、もしかして疲れてるのか。今日は早めに寝たほうがいいぞ」
と、余計なおせっかいとも取れる忠告をした。結局、その日は糸が気になり、彼は仕事に集中できなかった。