はじめてのミッション マゲーロ2
「じゃ早く顔洗って食事に来なさい」
と言ってお母さんが出て行ったので、アキヒコを起こし、
「アキヒコ、いいな、マゲーロたちとのことは一切喋るなよ。昨日のことも、病院のことも」
念をおした。
そして二人で窓のところを見ると、ブツは消えていた。窓を大きくあけて首を
だし、周囲をよく見回したが、地面に落ちたものもなかった。あの後、マゲーロ
が取りに着たんだろう。
その時、朝ごはんのハムエッグの匂いが漂ってきて思わずよだれがでそうになった。二人ともめちゃめちゃお腹がすいていたことを思い出し、大喜びでダイニングに走っていった。
8章
その後マゲーロは一度だけ窓辺に現れた。
晩秋のくすんだ庭を背に、窓際に妙に鮮やかなみどりいろが見えたと思ったらマゲーロだった。当然弟が先に見つけてぼくをつつき、窓をあけた。
「よ、すっかり寒くなったな。オレも衣替えしないと目立っちまう。」
「久しぶりだねえ。その後どうだった?」
マゲーロは、返すものは返し、ごまかすものはごまかしてなんとか切り抜けたこと、サトシになったエージェントSが3日後に急に具合が悪くなって亡くな
ったことを告げた。
「これは地上任務のSが死んだせいだ、と確信されたわけで、したがって今後Sの探索は一切なされない。これで人間のサトシは安全だよ。」
「そうか、Sには気の毒だけど、サトシ君が地上で人生を送れることになってよかったよ」
「ま、そういうわけで、今回はいろいろ大変だったが、うまくいってよかったよ。ありがとうな」
マゲーロに礼を言われた。
「じゃ、またな」窓から身を乗り出したマゲーロに、
「また近いうちに遊びに来てよ、それまで元気でね。」
「まげーろ、もっと会いたいよ。バイバイ」
声をかけたが、「じゃ」と言ってあっという間に消えてしまった。
マゲーロの消えた冬枯れの庭をぼくたちはいつまでも見ていた。
今度はいつ会えるかな。でもあんな風に人の生き死にがかかわるとちょっと重たいよなあ。
「そうだ、アキヒコ、今度サトシ君がどうなったか、ちょっと調べにいってみようよ」
「そうだね」
ということで、学校が早く終わる日にアキヒコを連れてあの時の病院を訪ねてみることにした。道は覚えていたが加速装置なしで歩いたら、1時間近くかか
ってしまい、ぼくも疲れたが、アキヒコはもう歩けない、とぐずぐず文句を垂れまくる始末だった。
病院の受付に行くと「外来は終わりました」とにべもなく言われたので、
「ここに入院してたサトシ君の友達で」と言ったら面会受付の場所を教えてくれた。
面会受付の人に「ここに入院してたカワムラサトシ君の友だちなんですけど」
と言ったら、
「あら、カワムラサトシ君は確か随分前に退院してるわよ」と言われた。
「元気になったんですか」
「そうそう、重体で緊急搬送されて何日も意識不明だったのが、ある朝突然目が
覚めると、ピンピンしてたとかで、病院内じゃ有名になって」
「そうですか、わかりました。ありがとう」
「よかったね」ぼくたちは顔を見合わせてにっこりした。
自分たちの頑張りでサトシ君を助けられたことに満足して、ぼくたちの帰りの道のりはおどろくほど足取りの軽いものになっていた。
(おしまい)
作品名:はじめてのミッション マゲーロ2 作家名:鈴木りん