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はじめてのミッション マゲーロ2

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初めてのミッション
 
 1章
 
 木枯らしが色づいた桜の葉を降らせている。
 空気に焚き火の匂いが混じるようなこの時期の風はどことなく寂しい感じがするものだが、ぼくはうきうきした足取りで学校から帰ってくると、ランドセルを部屋に放り込み、弟のアキヒコを呼んだ。
 「アキくん、秘密基地行くよ!」
 「はーい」
 弟も目を輝かせてすっとんできた。
  
 ぼく4年生のタカアキと幼稚園児の弟アキヒコは、ひょんなことから宇宙で難破しこの地球の地下世界に住む宇宙人、マゲーロと知りあった。そしていろいろあって、結果的にぼくらは自由に地下世界に出入りできるようになった、はずだった。しかし、ぼくたちがマゲーロを捕まえて、反対にぼくたちが地下世界に永遠にとらわれるところだったあの事件以後、連絡係りのマゲーロは長いこと姿を現さなかった。
 それが今朝突然ぼくたちの部屋の窓辺に現れ、
 「おい、おまえたち、最初のミッションだ。今日学校から帰ったら、例の場所に来るんだ。いいな」
 とだけ言って、どこかへ行ってしまった。

「なんなんだよ、いきなり。こっちの都合もきかないで」ぶつくさ言うぼくと違って、弟はキラキラした目をして
「ミッションだってよー。一体なんだと思う?」
と興奮気味だ。
まあ、ぼくも楽しみなんだけどね。

 地底に行くときは地球の情報収集のためぼくらそっくりに擬態した「ぼくらのコピーたち」と交代することになっている。だから何日か行っていても、まわりにばれることもない。
 しかも交代時に彼らと手を取り合って記憶交換できるので怪しまれることもない。学校を休んでいても授業に遅れることがない。
 という手はずになっているので、安心してミッション遂行に集中できるというものだ。
 
 地下世界にいくにはマゲーロたちの食べるものを食べて同じバイブレーションを発するようになった弟と一緒でないと最初のゲートが通れない。
 だからぼくたちは常に行動をともにしないわけにいかないのだ。
 例の空き地の穴にたどり着き、ぼくたちは周囲をざっくり見回した。
 大丈夫、誰もいない。地べたにかがみこんで穴を覗きこむようにしながら、小声で「おーい、マゲーロ。ぼくたちだよ」と声をかける。
 すぐにマゲーロが穴から顔をだし、
 「よし、来たな。じゃ行くぞ。ちびすけ、兄貴と手つないで反対の手を突っ込め」
 そうした途端、例によって天地がひっくり返ってぼくたちは小さくなって穴に転がり込んでいた。
 
 
 2章
チューブで移動しながらマゲーロは説明した。
 「実はだね、一人どうしても連絡のとれない仲間がいるんだ。そいつはおまえたちと同じ地域にいるはずだ。探してほしい」
 「え?同じ地域ったって広いよ。どうやって探すのさ」
 「いや、探すのはおまえらそっくりのエイリアン仲間のほうだ。人間には無理だ。我々には独特の感覚があり人間と識別できる。ただ、地上に出ないと探しようがない」
 「へえ、そうなんだ。だったらぼくたちは地下世界で何するの?」
 「次の段階に進展するまでとりあえず遊んでていいよ」

 チューブから降りるとこの前のステーションみたいな場所にいた。
「いいか、おまえらはあくまでも人間に擬態して地上世界に潜入している我々の仲間ってことになってるからな。ものめずらしげに見回したりしないで、ささっとさりげなくついて来るんだぞ」
 マゲーロは先にたってさっさと歩き、誰かに出会うと、
 「やあ、地上の斥候と打ち合わせでね」
とかいってやりすごしていた。
 
 ふと見ると弟はキョロキョロしまくっていた。まずいと思ったが小さい子供を
演出しているように見えなくもない。ただ、面白そうなものを見かけると突進しかねないので、手はがっちり握っておいた。
 幸いすぐに目的の部屋が見つかり、マゲーロはそこにぼくたちを入らせ、
 「ちょっと待ってろ。奴らを連れてくる。」と部屋をでていった。
  
 部屋にはテーブルと椅子がいくつかあるだけの、以前連れてこられたところと似たような場所だった。
 ドアを軽くノックする音がしてドアが開き、
「やあ久しぶりだね、タカにアキ」コピー・タカとコピー・アキが手を振って入ってきた。
 「やあなつかしいね。」
 「こんにちは、もう一人のあきくん」
 ぼくたちはお互い握手をかわした。頭のなかにコップの水をそそぎこむような感じに相手のこれまでの記憶が流れ込んでくる。
 彼らはさらわれて記憶をなくした人間の子供として、居住地の養父母と生活をともにしていたらしい。でもマゲーロから呼び出されれば無条件に従うとりきめになっているようだ。当然外にでたくてうずうずしていたわけで、声がかかるのを待ち望んでいたのだった。
 マゲーロはぼくたちを見比べて、
「おまえら紛らわしいな。みてくれそっくりだしな。人間のほうをタカ、アキ、と呼ぶから、エイリアンのほうはエージェントT、エージェントAにしとくぞ。」
と言った。
「えーじぇんとって何?そのほうが長くてややこしくない?」
そりゃアキヒコにはわからないだろう。
「ああ、そうだな、でもスパイ映画ででてくるだろ。いいよ、TとAで」
 確かに紛らわしいとは思ってたんだ。自分そっくりの奴を一体なんて呼べばいいのかな、と思ってたし。
 「よし、そういうことで、仕事の話だ。実は一つ問題が起こってるんだ。地上偵察員として小学生になりすましてる仲間に連絡がとれなくなっている。TとAで探り出してきてくれ。担当地域はあの出口から半径5キロ以内。さくら町一丁目の自宅にいるはず。」
「はず、って分からないのかい?」Tが聞いた。
「一昨日までは、そこから通信がきていたんだが、今は途絶えてる。」
「あのさあ、それって引っ越したとか長期旅行に行ったとか、そういうんじゃないの?」ぼくは思わず口をはさんだ。
 「そういうのは逐一連絡が入るはずなんだよ。」
 「じゃ、事故にあったとか?」
 「そういう可能性も含めて、どうなってしまったのか、調べてきて欲しいのさ」
 「ラジャー。任せといて」
TとAは敬礼すると意気揚々とでていった。

 ぼくたちは要するにエージェントTとエージェントAが本来の仕事をするために交替させられ、ここで待機させられている、ということが分かってきた。
マゲーロはぼくらのほうを見て
 「さて、おまえらをどうするかだなあ?」
 「どうするって、どうすればいいんだよ。」
 「外に派遣されてるはずのおまえらが、やたらそこらをうろつかれたらまずいしな。」
マゲーロは腕をくんで考えていた。
 「まさかどこかにずっと閉じ込めておこうなんて考えてないよね。」
ぼくはおそるおそる聞いてみた。
 「まあ冷凍睡眠室というのもあるにはあるが…」
 「おいおい、そりゃないでしょう」
そこへ弟が口を挟んできた。
 「あの子たちのおうちはどこにあるの?」
 「そうだよな、そうすりゃいいんだ、なんで思い出さなかったんだろ。」
 マゲーロはぶつぶつ独り言を言って
 「よし、TとAの家に帰るぞ。ただし、おまえらとあいつらが交替したとかそういう内部事情は口外しないように。」
 そういってぼくたちを従えてチューブのステーションのほうに歩いていった。