悩める熟年世代、VRゲームにハマる!
皆、慌てて避難しようとして車を走らせたのだろう。渋滞に耐えかねて車を乗り捨ててしまい、道路が封鎖されてしまった。救急車や消防は通れず救助は難航している。
ハセガワは道中、清一の容態を気にして話しかけてきた。
清一はハセガワに笑顔を向けた。
清十郎にとってハセガワは救世主だった。もし一歩遅く彼が踏み込むのが遅れていたら、清一は死んでいたかもしれない。
清十郎は清一をおんぶしてるから、後ろでどんな会話のやりとりをしているのか、聞こえてくる。
他愛のない会話のやりとりであるが、清十郎は、久しぶりに聞く息子の明るい声が嬉しかった。
【学校】
光木中学校のグラウンドに自衛隊専用の車にヘリコプター、戦車も一台待機していて物々しい雰囲気に包まれている。
校門に見張りの隊員が6人ほどいて銃を構えている。
「さあ、ここでお別れです」
ハセガワは清十郎たちに一言そう言い、他の市民を救助しに駆けていった。
清十郎たちは校門の前にたどり着くと
「ストッー プ、ストーーップ!」
突然の警笛と叫び声。
無線機持った隊員達が銃をこちらに向けて近づいていくる。
「要救助者を確認、これからボディチェックを始めます」
清一は担架に寝かせられ、清十郎はボディチェックを受けた。
検査が終わり校舎の中へと案内される。
清一は担架を持った医療スタッフに連れていかれ
清十郎はスタッフから、息子が被害を受けた際の状況を細かく聞かれた
幸い息子の命に別状はないそうで、しかし、足の方は直ぐにでも手術が必要になるらしい。
清十郎は手術が始まるまで清一の手をずっと握っていた。恥ずかしがる息子の顔を見ながら、ずっと……
------------------------- 第54部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
シーズン1のおわり
【本文】
《竹内の正体について》
竹内はシステム管理者でありゲームの仕組みは大よそ把握しているつもりでいた。しかし、細かい仕組みに関しては認識不足であり、ゲームを直接プレイして、学んでいる状態である。
竹内はゲーム中、幾つかの嘘をついていた。高校教師であること、ゲームを知らない初心であること、システム管理者の権限を使えば、清十郎達の探している息子にも容易に出会わせる事ができること
竹内には、引きこもりの子供がいてゲームに現実逃避している。清十郎達と事情が違うのは、ゲーム内での息子の居場所が分かっている事であり、また、親子関係がどうにもならないと思い込んでいる。
竹内は息子に相手にされない欲求不満な日々を解消するべく、他人の引き篭り相談を受けて、偉そうに説教して欲求不満を解消している。清十郎が引き篭り相談所に来た際に、自分より偉そうな態度をしてくる清十郎に腹が立ち、ゲームの世界で先回りして待ち伏せしていた。
痛み止めアイテムを使い、ゴーストからの攻撃に痛い振りをして清十郎の同情を誘った。清十郎が、この痛いゲームから早々に逃げて貰っては仕返しにならないと思った竹内は、いろいろなヒントを出してる間、清十郎の偉そうな態度が変わってく姿を見てしまった。
普段ぶっきらぼうなキャラが、そうでない態度を突然すると、普段から性格が良い人と同じ位に良く見えるもので
竹内は清十郎と行動を共にする事で感情移入をしてしまい、前向きに冒険を楽しむ様になった。
竹内は清十郎と出会う前は、息子の引き篭りの事で悩んでいて、遊ぶ心の余裕がなかった。今は清十郎達とゲームをするのが楽しくて、ついつい今日も、上司の目を盗んで仕事の合間にログインしてしまっている。
《安井の正体について》
清十郎には見抜けなかったが安井は計算高い女だった。
引き篭りの子の情報提供者に1億円の懸賞金は真っ赤な嘘であり、東証一部の婦人であるのも嘘。引きこもりの息子を探しているというのも嘘だった。
掲示板には、引きこもりの子探し以外にも、出逢い募集や、魔法研究会活動等、様々な、どうでもいい情報を掲載している。どれも実態は何の活動もしていない。活動に興味を持った者たちのアカウントを集めているだけである。
安井は集めたアカウントを監視する。
安井は麻薬捜査官である。プレイヤーと親しくなり麻薬取引の情報を探して犯人を追い詰めるのが仕事である。
ゲーム内では金持ちに成りすまして大金をチラつかせ、麻薬の売人をおびき出すのが安井の役目である。
おとり捜査の為に様々なプレイヤー達と知り合い、人脈を拡げている
安井は捜査班の仲間から特殊なゴーストを借りていて、清十郎ゴーストの心を読む能力を封じている。ゴーストから安井の正体がバレないようにしている。
安井が麻薬捜査部に来た理由について、安井は人には話したことがない。安井はヤクザに強い因縁があり、復讐したいと願っている。
安井はヤクザに復讐したくて警察官になったのだが、警察官の仕事は復讐することとは無縁の職業であった。ヤクザ組織を摘発する事は出来ても、潜入してヤクザの弱みを握ったり、闇討ちしたり、そういったチャンスとは無縁であった。
警察官は正義のシンボルである。
法的に潜入任務や囮捜査はしてはいけない決まりで、囮捜査が唯一許可された組織が警察とは関係のない厚労省の麻薬捜査部だった。
つまり、安井は警察官になっても意味がなかった。安井の認識ではヤクザは麻薬を密売するものであり、麻薬捜査をしていけば、安井は復讐相手のヤクザに近づける。安井は警察を辞め麻薬取締官となった。
安井が復讐したい相手は目の下に大きなクマがある男であり、ヤクザである事と顔以外は何もわからない。名前も、何処の組に所属しているのかも分からない。
安井は清十郎メンバーと行動を共にしながら、VIP世界のパーティーにたどり着いた。金持ちの集まるパーティーであるから、麻薬の密売が行われるかもしれない。リドナーで脳内を監視された人々の集まりといえど、カネさえあればリドナーを買収する事もできるだろうから、安井はパーティーに紛れてゴーストでプレイヤー達の脳内をチェックしていった。
安井の持つゴーストは特殊仕様で、ゴーストの存在をプレイヤーに気付かれる事がない。魔法やアイテムでその存在は見える様にはなるものの、安井は捜査班の仲間に作らせた透明になれる鎧をゴーストに被せている。その鎧は魔法を受け付けない性質もあるので実質的に、安井のゴーストの存在は他プレイヤーにバレルことはない。
ゴーストの力を使えば、安井自身もその存在をプレイヤーから隠せる。安井は清十郎達に見えないところで、いくつもの麻薬の密売を取り締まってきた。
安井は見えないから、プレイヤーの監視は得意である。VIPなパーティーで不審なプレイヤーを探している最中に、人工知能の反乱事件に遭遇したのだ。
安井はプレイヤー全員に送られた警告メッセージを読み終わった瞬間、強制ログアウトしていた。
VRから目を覚まして周囲を見渡すと、捜査部は慌ただしかった。
ゲームに接続している職員達が一斉に異変が起き、それを偶然目撃してた職員が、全員を強制ログアウトさせたのだ。
作品名:悩める熟年世代、VRゲームにハマる! 作家名:西中