悩める熟年世代、VRゲームにハマる!
「このゲームは不特定多数の見知らぬ人に一気にメッセージを送信するのは基本的にできないのだけど、こうして地面に字を書いて置けば、通りすがりが読んでくれる。地面に清十郎さんのIDと伝えたい事柄を書いておけば心当たりあるプレイヤーから連絡がくると思う。幽霊屋敷の入口あたりに書いとけば、良いんじゃないかしら」
そう言うと寺井は、書いた地面を光らせる魔法と、書いた地面が他人に消されない様にする魔法の使い方を教えてくれた。
寺井
「今はまだレベルが足りなくて使えないと思うけど、今回は私が代わりに書いてあげる」
とはいえ清十郎は、どう書いていいのか、分からなかった。
例えば通りすがりに、『引きこもりの子を持つ親からのメッセージです。、子がこのゲームにハマり部屋から出なくなりまりました。つきましては子の居場所について心当たりがある人はメッセージを下さい』
という文面を書いたとして、あまり深刻さ伝わらない。かと言って長々と説明を書いていても、読みにくいだろうし、最後まで読まれないかもしれない。
親の恥を世間に公表している様でカッコ悪い気もする
竹内
「地面に音声を残す事はできないのでしょうか、できれば動画なら良いのですが」
竹内は先程まで図書館で魔法の仕組みを勉強していた。理論的には可能であるので質問した。
寺井
「残念だけと、ちょっと前までその魔法は使えてたのだけと、業者の宣伝が横行してしまって、迷惑行為なるからとメーカーに禁止魔法に指定されてしまったわ。解禁するにはメーカーに交渉しないといけない」
竹内は諦め、そして考えていた。どういった文章がこの場合最適なのかを
読み手を疲れさせないで、飽きさせなきで、共感してもらえる文章について
寺井
「こんな文章はどうでしょうか」
『引きこもりの子を持っ親からのメッセージです。子がこのゲームにハマり部屋から出なくなりまりました。つきましては子の居場所について心当たりがある人はIDまでメッセージを下さい』
内容は清十郎が考えたのと似ていた。
寺井
「説明が長くなると読みにくいので、短くしました。この文面からだと、バカ親子の様な印象ですが、かえってその方が面白がられて覚えて貰いやすいのかなと。面白がられて口コミで広まって貰えれば、何もしなくても情報が集まるかもしれませんし」
書く内容が寺井案で決まりそうだったその時
一人の女性が突然背後に現れた。テレポートして来た様子で
「はじめまして、安井といいます。清十郎さんから、メッセージを頂いたんですけど……」
その女性は、清十郎と竹内と同じく、引き篭りの子供を探していて、街の掲示板で懸賞金をかけて情報提供者を募っていた。清十郎は、ここに来る前に、その女性にメッセージを送っていて、それでやってきたのだ。
女性は清十郎から、今の状況を聞いたあと
「良かったら、私も参加させて頂けないでしょうか」
安井はこのゲームで一年以上我が子を探していたが、手掛かり1つ見つけられなかった。それもそのはずで、プレイヤー人口が5000万人もの中で人探しするのは雲を掴むようなものだった。懸賞金を掛けたとはいえ、街の掲示板のデータベースは一万件以上あり、指名手配犯や行方不明者等の重い案件から、出合い系ビジネスのくだらない宣伝まで、さまざまあり、わざわざその中から安井の書き込んだ情報を見つけてくれる人は居ないのだという。見つけるのは、せいぜい同じ悩み持つ親くらいでーー
安井は当初、メッセージをくれた清十郎に対して、いかに人探しが徒労に終わってしまうのか説得しようと思っていたらしい。しかし、清十郎たちメンバーがゲームを楽しんでる話を聞いたら、今の現状、人生を楽しんでいない自分が虚しくなりー
安井は失望するストレスから逃れる様に幽霊探索という遊びに志願した。
「宜しければ地面に書くメッセージに『懸賞金最大1億』も付け加えて下さい」
安井はどこかの金持ちさん、なのだろう
金持ちの子が部屋に引きこもるとか、庭付きの豪邸一件分くらいの部屋なのかもしれない。
ー安井のデーター
職業 青魔道士
青魔道士のスキルは敵の技を受けるとその技を習得できる。派手な演出技が多く、人気ある職業だ。
安井の覚えた技は、ダンジョン初期で出会うゴースト得意の幻覚攻撃。幻で脅かし相手を怯ませる効果がある。
一年プレイヤーの先輩だが、息子探しばかり奔走していたから、それ以外の技は覚えていない。
プロフィールには、「東証一部上場社長の婦人が引きこもる息子を探してます」と書かれている
こんなプロフィールでは、息子さんに近づいた途端、正体がバレてしまうだろう。懸賞金目当で誰かが息子さんを見つけたとしても、近づけば気付いて逃げて、雲隠れするに違いない。
安井は、もしかしたら、アホなのかもしれない。
いや、もしかしなくても究極のアホなんだ。
清十郎は安井の事を温かい目で見守ることにした。
【後書き】
金持ち安井を加えて総勢5人メンバーで幽霊屋敷攻略に挑む事になった清十郎。
次回、幽霊屋敷編スタート
※
ドラゴン退治のシーンは面白いシーンが書けないのでカットしました。
------------------------- 第32部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
幽霊屋敷
【本文】
幽霊屋敷に入った5人は、その瞬間から、全員がバラバラになった。屋敷そのものが幽霊の身体の中であり、また空間をねじ曲げる事ができる屋敷だった。屋敷は、プレイヤー全員の距離間隔を無限にした。魔法のマントで高速移動しても、物理的に出会えない距離にされ、テレポート魔法も打ち消される。5人はそれぞれチャット通信で互の状況を確認することしかできない。
メンバーにゴーストがいる場合、そのゴーストだけが、屋敷の影響を受けない。ゴーストはバラバラになったメンバー5人全て見つけだすと屋敷の謎が暴かれる。そういうイベント設定になっている。
尚、イベントの最中、プレイヤーは、その設定を記憶から除去される。つまり『ゲームをしている記憶』が失われる。ゲームをしている自覚がなく、森で幽霊屋敷に迷い込んだ気持ちになる。
ゲームに飽きることなく、何度でも楽しめるようにと考えた、メーカー側の配慮である。
〜清十郎視点〜
ここはどこだ?
私はたしかゲームを みんなでやってて
そう、ゲームに飽きて、みんな やることなくなって、退屈になって、幽霊屋敷といわれる廃墟で肝試しする事になったんだ。
でも、みんな、どこ行っちゃたんだろ?
屋敷に入るまでは、傍にいた筈なんだが、
「おーい、みんなーー!」
返事はない。
屋敷の外に出ようかと思ってもドアは見つからないし、窓は開かないし、それに外の景色が、ない。真っ赤だ。
唯一、血の海が広がる様に血平線が見える。屋敷の外は森だった筈なんだが。
良く見れば血の海の中を
ゾンビらしきものが、歩いてる。
一匹だけじゃない。
ゾンビはますっすぐ屋敷の方向に向かっている
早くドアを見つけて逃げないと。
作品名:悩める熟年世代、VRゲームにハマる! 作家名:西中