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北へふたり旅 66話~70話

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北へふたり旅(66) 函館夜景①

 午後2時35分。列車が函館駅へすべりこむ。
線路はここで終点。この先は市電かバスが観光客の足になる。
出発から8時間。ようやく1日目の宿泊地・函館へたどり着いた。

 ホームと駅舎は段差のないバリアフリー。
中央口にひろがる広い空間を、降りたばかりの中国人たちが占拠している。
窓のむこう。綺麗な駅前ロータリーが見える。
大きなビルも見える。

(なかなかの町だ・・・函館も)

 しかし。街中を歩きはじめてから、違和感が湧いてきた。
ホテルへ向かって移動していく観光客の姿は有る。
だが地元の人の姿が見えない。
人口26万の町にしては、人の姿がすくない。
そういえばひろい通りも、なんだか閑散としている。

 (過疎地か・・・函館は?)
 
 ホテルまでおよそ1キロ。すこし迷ったが歩くことにした。
「海を見ながら行きましょう」
目の前に朝市ひろばの店舗があり、右手の先に海が見える。
函館湾だ。

 チェックインまで、まだ時間がある。
ゆっくり歩いてもまだ余る。
海に面した道路へ出る。路面がすこし荒れていた。
妻のキャリーバックが路面に弾かれ、カタコトと不規則に踊る。



 裏通りのせいか、ここにも人の姿がない。
誰にもあわず、海の匂いを嗅ぎながらあるくこと15分。
妻もわたしも汗ばんだころ、
前方に今日泊るラビスタ函館ベイが見えてきた。

 「おおきなホテルです。でも、入り口が見当たりません」

 「裏からは入れないようだ。
 反対側かな入り口は。しかたねぇ。もうすこし歩くか」

 「赤レンガの壁がずっとつづいています。
 やはり入り口は見えません」

 「そこのドアは?」

 「ホテルのレストランです。
 あ・・・駄目。クローズの札がさがっています」

 「要塞じゃあるまいし、入り口はいったいどこだ?。
 建物を半周しちまったぞ」

 「あら?」

 「あったか。入り口」

 「あれかしら。なんとなくエントランスのような雰囲気です。
 でも小さいですねぇ・・・
 車で乗り着け、横づけするような立派な玄関を想定していたのですが
 こじんまりとしています」

 「ほかにないなら、それが玄関だろう。
 ホントだ。小さいな」

 キツネにつままれたような気分で、入り口を通過する。

 「中はひろいですねぇ」

 「異国の雰囲気と、大正ロマンが混在しているような空間だ」

 「異国情緒の町ですもの、函館は」

 「♪~は~るばる来たぜ函館へ~じゃないのか函館は。北島三郎の」

 「函館が開港したのは1859年。
 横浜や長崎とともに、日本でいち早く国際貿易を始めた町です函館は。
 当時のレトロモダンな雰囲気が、そのまま残っています。
 町をあるけば、レトロな建物がたくさんあります」

 「最新の新幹線で、180年前の歴史がのこる町に来たのか、おれたちは。
 テンションがあげるな。いやが上にも。
 しかし朝から電車に乗りっぱなしで、いいかげん疲れた。
 フロントでさっさと手続きして、部屋で昼寝をするか。とりあえず」

 「賛成。それもいいですね。うっふっふ」

(67)へつづく