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ヤマト航海日誌3

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2020.10.17 アルキメデスの亀



秋デスが、寒くなりましたねえ。今年はまったく急に寒くなったり暑くなったりの繰り返しで、8月にコロナの死者が結構多く出たとかで「第2波だ」と騒がれた。けれどもおれが思うにたぶん、その頃死んだ連中は、クーラーをガンガンに利かせた部屋でハダカで寝てたりしたんじゃねえのか。

そりゃ風邪もひきますよ。毎年、夏の特に残暑厳しい時期に、それが理由の肺炎で死ぬ人間が日に10人や20人出るのは当たり前ですよ。だからあの頃、マスコミや政治家どもが言うべきなのは

「これは第2波だ! 第2波だ!! マスク着用!!! マスク着用!!!!」

じゃなくて

「暑いからってクーラーのかけ過ぎはやめましょう」

だったんじゃねえのかとおれは思っているんだがどんなもんなんでしょうね皆さん。

――と、さて考えたんだけれども『ヤマト航海日誌』は今後、このように一回ごとに新規に〈本〉を作成して投稿し、一度出したものは誤字脱字の訂正も含めて一切の変更をしないことにしました。まあメインは〈楽天ブログ〉に移しているのでこちらにはあまり書くことはないでしょう。

では一体なんで今これを書いているかと言えば、前回のあれだ。本当は『粧説帝国銀行事件』について書きたかったのに『わが青春のアルキメデス』だけであんなに長くなっちゃって、書いてて疲れたんだよ。君も読むのに疲れただろう。困ったことにだな、あれだけ書いて出してやって、ああヤレヤレと思ったところで残尿感とでも言いますか。

これも山崎の『アルキメ』が何から何までひどいからだが、要するにおれがあれを直すならどうするかってのを考えたわけだ。例によってさ。前にmin305さんに、


《そこまで言うなら二次創作とか映画ネタを元にした創作とかしてないで、オリジナルで勝負してみてはどうでしょう。》


なんてことを書かれたりしたが、これがどうやらおれの性分らしいようだからしょうがない。



 おれが『アルキメの大戦』を直すならばどうするか。



まずは主役の福山雅治ガリレオの劣化コピー君を、福山雅治ガリレオの劣化コピーには見えない程度に性格を直したうえで言わせるね。山本56の相談に対して、


「今の飛行機の最高速度が時速200キロ? それって野球のピッチャーが投げるタマよりちょっと速いだけでしょう。野球のボールと違ってあんなにデカイんだから、狙って撃てば簡単に墜とされちゃうんじゃありませんか」

「まあ……しかし5年後には……」

「時速400キロで飛ぶ飛行機が出来るんですか。だったらそれ造ってからまた相談してくれませんか」

「だが戦艦はいま造られようとしているのだよ。なんとかしてそのためのカネをこっちに……」

「そんなこと言われても知らないよ。陸の上ならまだしもねえ、まわりに水平線しかない海で飛行機はいいマトになるだけでしょう。200キロも出ないんじゃダメと言われて当たり前だよ!」


と。1932年当時の現実をちゃんと描く。「これからは空母だ。戦艦なんか要らん。飛行機の性能は5年後に上がる」とただ言うだけではダメなのだ。そのうえでシブシブ引き受けた主人公に、大艦巨砲主義のおっさんに前回書いたように言わせて、


「今以上に大きな砲を積む戦艦は無用の長物になるだけです。お金は時速500キロで飛ぶ艦載機の開発と、それを飛ばす航空母艦に充てるべきです。敵より先にそれを造って運用できるようにならねば国を護れません」


と。けれども聞く耳持たぬおっさんどもに怒鳴られ、階段を蹴り落とされる。

主人公は56に、


「あの説明が通じない相手にどうしろと言うんだ! 階段を落とされたのはあんたのせいだぞ!」

「それで悔しくはないのか」

「だからあんたのせいだ。あんたの頼みを聞いたおかげで階段を転げ落とされたんだ。もういい。知らん。この国がどうなろうとボクは知らん」

「そう言わずに……」

「あなたが時速500キロの飛行機造ればいいことでしょ? 造れよ。造って見せてやりゃあ誰にもわかるよ。ボクは知りません」

「『敵に造られてしまう前に、こちらが造って運用できるようにならねば国を護れない』と言ったじゃないか。キミが自分で……キミの頭じゃそれがわかってるんだろう?」

「ああ、そうだよ。そうだけどね。でもボクは軍人じゃないんだ」


で、アメリカへ行く船に乗ろうとする。だが一等の区画の前で「ボクは数学者です」と英語で言うと、


「お前がスーガクシャ? 猿に計算ができるのか?」

「いや、あれだろ。ピーナツバターが札に塗ってあるんだよ。《5》とか書いてあるやつに。で、『2+3は?』と言われて取ってウキキキキーッ!」


なんてこと言う白人の船員に笑われ、蹴られて船のタラップを埠頭まで転がり落ちることになる。荷物も海に投げ捨てられる。彼を見送りに来ていた56に、


「ま、こうなると思っていたよ。わかるか? これが人種差別だ。国や財閥の後ろ盾がない日本人は、あれの一等や二等船客になることはできない。三等にも乗れない。その下に〈劣等船室〉というのがあってそれでしかキミはアメリカに行けんのだ」

「劣等……?」

「悔しくはないか。肌が黄色いというだけでこんな扱いを受ける。キミの頭でそれを変えたいと思わないか」

「ああ、わかった。やってやるよ。オレがこの国を護ってやらあ。やりゃーいーんだろ、やりゃあ!」

少尉君が、「やはり自分は反対です、こんな理由で気を変えるやつを! だいたいこれは矛盾していませんか?」

56は笑って、「国を護る気になったんだろ? ならいいじゃないか」


――とまあ、こんなとこかな。これが最初の30分で、おれにカネをくれるやつがいたらこの先を考えてやってもいいんだが、結末で主人公は大艦巨砲主義者から〈大和〉の模型を見せられる。


「見たまえ、艦尾にあるこれを。キミの『気球でも浮かべるのか』という言葉をヒントに考えたんだ」

「はあ、確かにそんなことを言った覚えはありますが……けど、なんですかこれ」

「観測機のカタパルトだ」

「観測機? 何を観測するんです?」

「『撃った砲弾がどこに落ちたか』だよ、もちろん。水平線の先の敵に、一発で当てることはそりゃあできない。しかしどこに落ちたかを観測し、角を調整して撃てば、次は当たる理屈じゃないか」

「そんなふうにいくわけないでしょ! 〈アキレスと亀〉の話みたいなもんだそんなの。当たるわけがない! 40キロ先の船など何千発撃っても当たるわけがない!」

「それは他の国の話だ。日本は神国だぞ。〈大和〉が砲を撃つときは、天皇陛下が靖国神社で『当たらせ給え』と御祈祷してくださるのだ。なのに当たらぬわけがあるかね?」

「ハアッ!?」

と、そこで、横で聞いてた56がポンと手を打ち、

「おお、そうか。それは気がつかなかった」

「ふっふっふ」

「いや、これは、この山本が浅はかでした。やはり戦艦も必要でしたな」

「わかってくださればいいのですよ」

「だがそうなるとこの〈大和〉は、伝家の宝刀ということだ。その日その時までは温存せねばならぬということですな」
作品名:ヤマト航海日誌3 作家名:島田信之