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【本文】

 西の空が残照ざんしょうで橙色に染まっている。綺麗な色だから明日も晴れるだろう。寺井は、そんなお祖母ちゃんの知恵袋的なことを考えながら、手の甲で汗を拭った。
 季節は暦の上では秋を迎えようとしているが、まだまだ日中は蝉が鳴き続けているし、肌にねっとりと絡みつくような蒸し暑さは健在だ。
 寺井は早く家に帰ってエアコンでも入れようと思いながら家路を急いだ。家路を行きながら、何となく今日のバイトの一コマを思い出していた。
 彼は下宿先から一キロほど離れたところにあるコンビニで働いていた。しかし、比較的に田舎に在るせいか、一介のバイトである寺井が不安になるほどに平日の客足は少ない。それでも、近くに市営の運動場がある関係で、休日になると何かの試合がある。そのため試合に出るスポーツ少年やその保護者たちは、水分やら昼食を求め、押し寄せてくる。もっとも寺井は休日のシフトに入ることは無かったので、その辺りのことは伝聞でしか知らなかった。
 休日は人が来るらしいが、平日はほとんど人が来ない。そのため、バイトの時間の半分から長くても四分の三くらいでやるべき仕事が終わってしまい、あとはレジに立ちながら店長と小声で話をするのだった。
「そう言えば、寺井君は彼女とかいないのかい?」
 どことなく昭和アイドルを思わせるようなマッシュルームカットが特徴の店長は唐突にそんなことを聞いてきた。どう答えようか数瞬なやんだ後、寺井は、
「――いない、ですね」
 と答えた。
「えへぇ~!? いないのかい? もてそうな顔をしているのにねえ~」
 そう言った店長はどこか嬉しそうにしているように寺井には感じられた。
「これから夏休みなんだから彼女といっぱいエッチをしないとダメじゃあないか」
 寺井は話題をそらしたかった。上司なので、会話を合わせないといけないが、店長の言い方は、まるで寺井ならチャラ男でヤリちんしてる様な言。侮辱的で耐えられなかった。
 しかし、店長にしてみれば、そのような悪意はなく、むしろ気を使ってくれて若者に合う話題を選んでくれているのだろうが……

「店長まだ昼間です」
 寺井はそう言ってエロ親父となりかけた店長をやんわりと諫いさめた。しかし、『おっさん』というものは話が長くなる。
「じゃあ、あれかい、右手が恋人とか……今流行はやりの二次元が恋人って言う感じのなのかい?」
「店長、まだ昼間ですし、俺が女の子だったら訴えられますよ――――あと二次元しか愛せないとか、別にそういうんじゃないです
 寺井は先ほどより少しだけ強く店長を諫めたが、観念したようにそう答えた。
「若いうちに遊んでおかないとダメだよ~。年を取ってからじゃなかなかそう言うことが出来ないからねえ」
  或いは、ただの猥談ではなく店長なりの年長者からのアドバイスじみたことのつもりなのだろう。
 寺井は、店長のセクハラを前向きに捉えたが、自分には関係のないことだと思った。
 仄ほのかに、寺井は胸にちくちくとした痛みを感じた。
「あとはアレだね、あんまり溜めるのは身体によくないよ。ホラ、ニキビも出来ているじゃないか」
「だからまだ昼間ですって――いらっしゃいませー」
 店長が下ネタを連発している最中、客が店に入ってきて、その日の猥談は終わった。
 寺井は客におじぎをして、仕事に戻った。
 寺井の勤め先はコンビニバイトである。底辺扱いされる身分なので下ネタが通用するのだと思われているのかもしれない。もし自身が東大生なら店長は同じ様に下ネタをふっただろうか? どうなんだろう? 舐められてセクハラされても仕方がない。 寺井はあれこれと世の中を斜めに解釈していた。
 店長と今日あった会話を思い出しながら歩いているうちに自分の部屋に帰って来ていた。
 彼の部屋は八畳ほどの大きさで、コンクリート打ちっ放しが特徴の殺風景な部屋だ。インテリアらしきものは見あたらない。
机の上にはノート型のパソコンと大学の教材と思われる小難しいタイトルの本が何冊か、在るだけだった。
「溜めるとダメ……恋人作れ……か」
 そう言いながらベッドに倒れ込んだ。

 …………。

 寺井は気がつくと眠っていたらしかった。
「――やべ、うたた寝した」
 寺井はそう言って枕元に手を伸ばし、時計を手に取る。時刻は午前二時を指していた。変な時間に目覚めてしまったなと寺井は渋い顔をした。寝間着に着替えてもおらず、風呂にも入っていない。しかし、今からではもう面倒だ。このまま寝てしまおう。寺井はそう思い、一度寝ようと目を閉じたときだった。
 不意に、下腹部に怪我をしたときのような衝撃が走った。
「うあっ!」
 思わず声を上げ、驚いて見ると、そこには半裸の美しい女性がいた。黒く長い髪はシルクのように滑らかで、重力に一切逆らうことなくすらりと垂れている。胸は大きすぎず小さすぎず、掌に収まるほど綺麗な形をしていた。なにかうっすらと甘い香りがしている。そして、西洋人形じみた、妖艶すぎるほど整った顔立ち。
 寺井は混乱していたせいか、それが誰なのか一瞬分からなかった。そして、自分の目の前にいるのが彼の元彼女、桜だということに気付く。
「桜っ! どうしてこんなところで……何をしているんだ!?」
 寺井は混乱していた。彼女とは別れてしまったのだし、こんなところに現れるはずもない。そもそも、どうして布団の中なのか? 部屋のカギはかけた筈だ。。
「ふふ、そんなこと言って……わかってるくせに」
 そう言って、桜は頬を上気させながら、抱きついてくる。寺井はわけが判らない。なぜなら桜は…。
 
「あっ……」
 ズボンに手をかけられる
「ふふふ、かわいい声……」
 そう言って桜はぺろりと炎のように赤い舌を出し、自分の唇を湿らせるように軽く舌なめずりしながら、ズボンを下ろそうとする。。
 ここまでされて頭の中で違和感が生まれていた。
 それがなんなのか考えようとするが思考が纏まらない。違和感は大きくなるばかりで、何か気味の悪い感覚が生まれつつあった。
「桜……止めてくれ」

「ふふ、止めちゃうの? 本当はそんなこと思っていないくせに……。脱がしちゃうね」
 そう言ってカチャカチャとベルトを外すような音が寺井の耳に雪崩込んでいく。桜はベルトを外すと、トランクスごとズボンを脱がしにかかる。
「あら? 止めてくれ、なんて言っておきながら、脱がしやすいように腰を上げてくれるんですか?」
 桜はクスリと淫靡な笑みを零しながら、勝ち誇ったような目でそれを指摘する。
 しかし、寺井の中でこれ以上ないほどに違和感がわだかまっていく。桜ってこんなに軽い女だったか? いや、それ以前に、何か重要なことを忘れている気がする。
「ふふ」
 不的な笑みを浮かべている。。その様子は、まるで獲物を捕らえたモウセンゴケのようだ。
「桜……君は…ほんとうに桜なのか?」
 寺井が切なそうな声を上げる。
「――っ!」

「どうしてっ――」


 そして、そこで寺井は目を覚ました。


------------------------- 第4部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
四、淫魔の棲む館

【本文】
作品名:著作権フリー小説アレンジ 作家名:西中