読めるか?
裏山でおらは、苔むした 石の祠を見つけた。
中には石版が収められている様だ。
少し近づいて、何が書かれているか読もうとした時、声がした。
「─ 何者だ?」
驚いて、おらは後ずさる。
「── 子供か」
幾らかの沈黙の後、祠は挑む様な声を響かせた。
「汝は、中の石版に書かれた文字が読めるか?」
「それぐらい読めるよ、サカナ でしょ。」
祠が、悲しそうに呟く。
「文字が読めるだけで…それがどう言うものなのかを、汝は知らぬ様だな……」
「バカにするなよ! 魚っていうのは、海とか湖とか川とか言う、大量の水がある場所に 住んでいる生き物だろ!!」
「だが、実際には 見た事ないであろう?」
おらは、必死で言い訳をした。
「ち、近くには、海も湖も川もないんだ!! 仕方ないだろ!!!」
「認識あるものが文字を読まないと、我は開放されない」
「え?!」
「我は、ここに封印されておるのだ」
祠から、口惜しそうな声が漏れる。
「…あろうことか、酒席で議論に負けたことを根に持ちおったバカが、我が酔い潰れておる間に、ここに封印しおった──」
「じゃあ、その人に何とかしてもらえば」
「雲上界で、ほくそ笑んでおる。」
何も言えないでいるおらに、祠が呟いた。
「はるか昔は この地にも湖や川があり、魚もおった。その時に誰かがここを訪れ、祠の中の石版の文字を読んでくれれば、それで封印が解ける可能性があったのだが…」
おっとうのおっとうのおっとうのその先の、はるか昔のおっとうの時に、近くに湖や川があったという話は、おらも聞いた覚えがある。
「この先も 汝の様に、字は読めても 実際の魚を見た事がない人間しか、この祠を訪れないのであれば。。。」